贖罪




題名:贖罪
作者:湊かなえ
発行:東京創元社ミステリ・フロンティア 2009.06.15 初版
価格:\1,400



 さすがに三冊目になり、そのどれもがある一定のレベルをキープし、さらにどれもが学園少女小説、かつミステリであるということで、相当の一貫性を印象づけている。書店でもいいコーナーを占有しているところを見ると、そこそこ世間では注目されている新進女流作家であるのだろう。

 もちろんデビュー作『告白』が、第6回本屋大賞を受賞したという、いわく書店員の評価をものにしたということで、庶民派の目線からの高い評価が、高座から選別された大概の賞よりもずっと眩しく感じる。

 少女たち。それはか弱き者たちである。本書では、ある一人の少女が犠牲になる。その少女がある一人の殺人者に選別され、殺害されたことに対し、当時、一緒にいた同級生たちのその後はそれぞれに悪夢を見る。PTSDというものもあるのかもしれない。しかし、それよりも事件が露わにするのは少女たちの真実であった。

 そんな構成の妙もあるが、この作家が主として用いる文体、一人称単数の口語体であったり、回想録であったりするその地面からの目線に独特のリアリスムを感じる者は少なくないのではないか。

 事件に関わる登場人物たちの誰もが、死に関わってゆく。犯罪、事故、事件、そうしたものに、どの関係者もがこれほどの高確率で関わる小説があるのはおかしい、と思う確率論だけの自分がいる一方で、事件がもたらす関係者への波紋ということを考えると、最近はそういう残された者たちのその後について叙述される小説が増えたのではないかという事実に思い当たる。

 宮部みゆきの『模倣犯』以来、事件そのものを叙述する以上に、事件に関わった者たちの物語のその後は、行き続けるがゆえに複雑でありデリケートなものである。そんな地平を描く女流作家の一人が、まぎれもなくこの湊かなえ、だと確信が深まる一冊であった。

(2009/10/12)
最終更新:2009年10月12日 23:43