疑心 隠蔽捜査3





題名:疑心 隠蔽捜査3
作者:今野 敏
発行:新潮社 2009.03.20 初版 2009.04.15 4刷
価格:\1,500



 ひと頃に較べるとシリーズ物が台頭してきたような気がする。それも警察小説でのシリーズものが。テレビの二時間ものサスペンスはシリーズものがスタンダードだが、そこにも、いつのまにかトラベル・ミステリーや娯楽推理ドラマの合間に、随分と警察ものが目立つようになってきた。最早や、推理小説は私立探偵の分野ではなく、警察小説の分野だとでも言わんばかりに。連続ドラマでも刑事ものは、過去の定型化したスタイルをいろいろな形で打ち破る形で、様々なヒット作を産んでいる。

 小説界でもその傾向は同様で、どの作家も警察小説でいい作品を創出するようになった気がする。文学賞の受賞作も警察小説が目立つのだが、佐々木譲『警官の血』や本書のシリーズの緒となった作品『隠蔽捜査』なども警察小説というジャンルの価値をともに押し上げているように思う、

 本書などは、そのシリーズものとして一風変わったキャリア官僚を主人公に据え、どこまでシリーズとしてネタを作れるのかという興味とともに追いかけているところなのだが、本書では米大統領訪日へのテロという極めて派手な題材を主軸にしながら、警備課の女性捜査官に対し家族もちで年齢差すらあるお堅い主人公が、何故か恋をしてしまうという、何だかやたらにソフトボイルドなエピソードの方が目立ってしまう娯楽作となっている。

 キャリア官僚でお堅いがゆえにか、大森署に左遷されている竜崎署長は長年連れ添った妻とは見合い結婚で、恋愛経験がないらしく、若い女性捜査官への気持ちの揺れ具合をどう理解していいのかわからない、といういささか中学生の思春期めいた恋心を持て余すのである。緊張に満ちた状況であるはずなのだが、キャリアで頑迷である竜崎という極めてハードな男がこんな風に揺れるところにこの小説の持つギャップの面白みがあるのかもしれない。

 かつて山田太一が『男たちの旅路』のシナリオでやってみせた特攻隊上がりの指令補の若い部下への恋情(もちろん相手からの求愛ではあったにせよ)に近いほどの違和感が本書にはある。しかしもちろん山田シナリオのように崩れず、本シリーズの竜崎は心のドラマとして内に秘める。

 スリリングな恋の動向が気になって、本筋が霞んでしまうほどではあるけれど、シリーズ小説としての息の長さを狙うならば、こうしたエピソードの蓄積はきっと必要なのだろうと思う。一作での評価よりも長いシリーズとしての定着を狙うならば。

そう。エド・マクベインの87分署シリーズのような歴史的快挙を狙うならば、である。

(2009/08/09)