K・S・P II 毒のある街





題名:K・S・P II 毒のある街
作者:香納諒一
発行:徳間書店 2008.09.30 初版
価格:\1,800



 K・S・Pとは、警視庁歌舞伎町特別分署<Kabukicho Special Precinct>のこと。今野敏のTOKAGEと言い、最近は、アメリカの人気ドラマCSIシリーズあたりにあやかった新しい部署名でのシリーズ化がブームなのだろうか。いまどき、CIAやFBIといった古臭い略称では読者は食いつかないのかもしれない。

 そのK・S・Pシリーズの二作目を読むとは自分では思っていなかった。一作目が、派手なアクション劇に終始しているために、香納諒一のそもそもの魅力である人間の掘り下げという部分が皆無であるように思えたからである。香納諒一という作家が、人間ではなくプロットに走っている最近の傾向に、いよいよ三行半を突きつけて、他の新しい作家を探しに出かけようと思いかけていた。

 ところが、とある情報筋から、KSPは10巻くらいのロング・シリーズになるということを耳にした。もっともっと深堀りされてゆく関係図なども期待できるようである。となれば、1巻だけで見捨てるのも忍びない。というところで、改めて書店に走り、購入、読み始めたのがGW休暇で北へ向う船の中であった。

 ところがいい意味でぼくの予想を裏切る秀作であるために、驚いた。同シリーズなのに、一作目で失望し、二作目で引き戻される。これは何だろうか。

 シリーズならではの脇役刑事たちの存在感が、これを成功させたのだと思う。癖のある刑事たち、癖のある悪党たち、そうしたバイプレイヤーの描き方の巧さこそが香納諒一の真骨頂であると信じるぼくのような読者には、これはたまらないのだ。

 この気配で今後も書き継がれるシリーズになるとすれば、こいつは捨て置けない。新宿鮫は事件や時代性を追った大沢在昌のハードボイルドらしいシリーズではあるが、脇役たちの描き方は、類型的で、漫画的で、少し成熟味に欠ける部分があり、そいつが読んでいていたたまれない。しかし香納諒一の書く、屈折した存在たちはある意味、日本作家の中では圧巻である。

 国際的な犯罪の巣窟ともいえる歌舞伎町に、新宿鮫とは違った視点で、刑事たちのもがく姿が生々しく描かれたこの作品。同じペースで、あるいはそれ以上の緊迫感で描かれるであろう次作にもたまらなく期待してしまう。

(2009/05/31)
最終更新:2009年05月31日 23:28