少女





題名:少女
作者:湊かなえ
発行:ハヤカワ・ミステリワールド 2009.01.25 初版
価格:\1,400



 『告白』が、現代風の題材を扱って、それなりに仕上げられ、攻勢の妙とストーリーテリングの巧さで、ぐいぐいと引っ張ってゆく作品だったので、第二作も躊躇わずに買って読んでしまった。

 いきなり高校生少女の遺書に始まる。そして、二人の少女の交互の描写が始まる。仲が良いのか悪いのかと問われると、どちらかといえばあまり仲が良くないように見える由紀と敦子の二人である。二人は、三人目の転校してきた友達により、人が死ぬ瞬間を見たことがあると聴かされ、我がちにと人の死を目撃しようと願う。

 由紀は病院へボランティアへ行き、敦子は老人ホームの手伝いに。死を目撃できそうな二つの場所で、だが、彼女らが出会ったのは……。

 二人と彼女たちを取り巻く周囲の数名の謎多き人物たち(死の現場を見た旧友、バイト先のおっさん、自殺した先生などなど)ともども、どこか物語がずれているようでいて、実は絡み合っているようにも見える。とにかく面白い。ページを繰ったら、本を置くことができなくなる面白さが、この本のどのページもある。やはり『告白』は、まぐれではなかったか。

 女子高生二人の夏休みを交互に描いて、そこそこユーモラスで、二人とも剣道部出身、とくると、知る人ぞ知る、誉田哲也の『武士道シックスティーン』『武士道セヴンティーン』に似たものが多すぎる。でも誉田作品はスポ魂もの純情派といった、ユーモアでは一歩抜きん出た、感動作品であるのに比べ、こちらは、前作ともども世相を映す風刺小説みたいなイメージが強く、何よりどろどろした暗さみたいなものが底にある。前作もそうだが、どこかブラックなのである。

 いじめ、自殺、裏サイト、痴漢冤罪、とそれなりに現代風の世相を切って取りながら、医療や介護のプロたちの世界に首を突っ込んでゆく二人の少女とその偶然の運命のミッドナイトクロスを描いてけっこう冷酷で、伏線もいっぱいなのである。

 ここ二作を見る限り、仕掛け上手な作家なのかと思う。少し前に本屋大賞を受賞した翌日か何かに、テレビ出演しているのを見て、作家としての初々しさと庶民的でフレンドリーな明るい雰囲気に、少し驚いた。暗い小説の書き手というより、青年海外協力隊でトンガに移り住んだことのあるというタフさの方が印象に残る人である。

 作家の多様化ということを考えると、こうした身近にいて実社会を知るような三十代女性が、こうした巧い小説を書くということに頼もしさを感じてしまう。本屋大賞も、妥当だと思う。

(2009/04/12)
最終更新:2009年04月12日 23:40