警官の紋章





題名:警官の紋章
作者:佐々木 譲
発行:角川春樹事務所 2008.12.28 初版 2009.1.8 2刷
価格:\1,600


 笑う警官(「歌う警官」改題)に始まる道警シリーズも三作目となる。常に道警内部の黒い霧に立ち向かう正義派の警察官たちが、まるで不良職員のように片隅の部署に追いやられながらも、それぞれが信念で動き、真相を明るみに出しつつ、結果的に警察機構の浄化機能を果たしてしまう。そんな快作の背景を作り出しているものは、佐々木譲が常々描いてきた黒頭巾血風録、駿女などに代表される、巨大な権力構造としての悪に対し戦いを挑む小さな正義の個たちの姿である。彼らの素顔、そして必ずしもすんなり勧善懲悪の解決法を見ない非常なリアリズムが見えるからこそ、佐々木譲の小説は現代的かつ、風土に根ざしたものがあるのだろう。

 北見の一人の警察官が、過去の事件の真相を聞いたことから、復讐の一途な思いで札幌に向かうことから、本書のダイナミックな疾走感はスタートする。一方で、サミット開催に向けて日本中の警察組織が道内に集結しつつある。2008年の世界的イベントを題材に、これまでの二作を引き継いだ道警の奥の暗闘に決着をつける展開が本書の読みどころである。

 二作目を超えたスケール感、緊迫感が漂うのは、洞爺湖サミットという日本中(北海道中?)を沸かせた独特の同期性ゆえだろう。少なくとも当時、洞爺湖近辺に車を走らせることの多かったぼくは、藪の中に潜んでいる沢山の制服警官の姿や、無線機から発される擦過音のようなノイズを車窓越しに見聞きしたこともあり、普段なら平穏極まりない北海道の大自然の只中に日本中から都道府県系が集合していることの異様な気配に神経がぴりぴりしたものだ。

 逃げた警官を追う者と、過去の二冊の犯罪の裏に潜む巨悪を追う者が、札幌でクロスする。さらに逃げた警官は、過去の事件の真相がトリガーとなった信念を持つ若者として好感が持てる。逃げた警官は銃器を持ち、標的に迫る。阻止しようとするシリーズレギュラー陣たち。映像的でスリリングな展開の冒険小説が久々目の前にあるという感覚が、何よりも嬉しくなる一冊であった。

(2009/03/31)