エッジ



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題名:エッジ 上/下
作者:鈴木光司
発行:角川書店 2008.12.19 初版
価格:各\1,600

 ここのところ印象の薄い鈴木光司だが、本書はあの『リング』から『ループ』に繋がる驚愕三部作のさらに延長線上に位置する作品である。サイエンティフィックな視点で書かれたエンターテインメント。

 最近はヒューマンな純文学的傾向が多かっただけに、純然たる娯楽小説として書いてもらったことはまずは嬉しい。ちと小難しい理数系の理屈が沢山出てくるのだが、瀬名秀明以外ではサイエンティフィック・ホラーを真っ向書こうという人はあまりいないから、これはこれで貴重な個性であるのかもしれない。

 SFというジャンルに属するのかな、とも思えるが、版元が『リング』シリーズの角川書店であることを考えると、やはりホラーと解釈した方がいいのかもしれない。純然たる恐怖というには、少し理論が数学の方面を向いているのでぴんとこないところもあるのだけれど、これがとんでもない法螺話なのか、専門的知識の延長上にきちんとロジカルに展開している物語なのかは、多くの読者には判断できないところだろう。少なくともぼくには判断できない。

 人間が消滅してゆく。ごく単純な失踪事件に端を発したかに思われた物語は、さらに壮大なスケールでの、さまざまな消滅事件に繋がってゆく。プレートがずれたり、無理数の計算値に変化が見られたり、銀河の星や太陽黒点の異常な動きが観測されたり、地球はおろか、この宇宙はいったいどうなってしまうのだろうか、といった疑問を抱え込まされながら、物語は、父が失踪した過去を抱える女性ライターを軸に、彼女の周辺で起こる様々なミクロな異常事象を捉えて、先の見えない展開を連続してゆく。

 彼女とその周囲の人々が巻き込まれ、じわじわと拡がってゆく不安定感の果てに、これまたスケールの大きな大団円が待ち受けているのだが、SF、ホラー、冒険小説といったジャンルを跨いだ意外なラストには、驚きを禁じ得ない。

 こちらの予想を徹底して覆してくれる世界破壊の小説であり、ずれてゆく様々なものを最後までツイストさせて、読者を煙に巻く作品である。鈴木光司としては新たな金字塔といったところなのだが、この路線を今度はどこまで延ばしてさらなる交響楽を、小説という装置の中で掻き鳴らすことができるのかどうか、少し瞠目して見たいという気にさせられる。

 ぼくはSFは好きではない口なので、最後の力技には少し疑問を感じた。だが、全体を見はるかせば、自分としては好みのタイプに入る小説であるかもしれない。ページターナーと呼べる面白さは十分に持った作品である。

(2009/02/22)
最終更新:2009年02月23日 00:09