中原の虹







作者:浅田次郎
発行:講談社 第一巻 2006.09.25 第二巻 2006.11.1 第三巻 2007.5.15 第四巻 2007.11.8 初版
価格:各\1,600

 第一巻

 満州を駈ける馬賊、というだけでロマンを感じてしまう。血が騒ぐ。

 でもその血は泡立つような憎悪と闘争の中で凍りついてゆく。

 宿命に弄ばれる親と子、兄と弟、男と女、そうした悲劇や孤独な魂の数々が、凍てつく大陸に繰り広げられる圧巻の一巻。

 張作霖といえば、最近になって関東軍ではなく、ロシアによる工作との見方が現実視されているが、彼の満州での重要性というものが本書を読んでゆけば明らかになってゆくのだろう。北満の覇王伝説として、相当に魅力的である。

 第二巻

 同じ国の覇権ということにしても、スケールが大きすぎる。日本の首相など足元にも及ばぬ。連綿とする四億人の統治。列強から国と人民を守るために、西太后が選択した道は、あまりにも過酷であった。

 映画『ラスト・エンペラー』のベルドリッチ映像のスケールを活字にしてもそのままに、迫力ある筆致で描きつくした、国家の終焉。

 端的に言えば、第二巻は、あらゆる意味で親が子を殺す物語であった。その過酷と、強靭な意志の彼方に隠された真実を目撃する充実が、ここにある。

 『蒼穹の昴』の春児(チュンル)が大活躍!

 第三巻

 起承転結の四巻で構成される『中原の虹』。転の第三巻である。

 第二巻の西太后の存在感が凄まじかった上、春児(チュンル)が幕を閉じてゆく方法に感嘆し、いっときのクライマックス感が消滅し、少しだけ、中休みのイメージのある本書。実は、歴史も中休みだったのだ。

 西太后から溥儀へと移り行く満州国建国までの狭間の時期、中原を統べる人物がどこにもいなくなってしまった端境期。

 そんな空白の中、甦る袁世凱の運命を綴ったのがこの第三巻。誰からも嫌われ、才能を見くびられ、人望がなく、直観頼りの人物ととことん低レベルに描写される袁世凱だが、彼の中にも物語があることを示唆し、救国の思いが中国の歴史を束ねてゆく群像の様子を描き切る。

 中国は分裂し、統一感を亡くしてゆく。第四巻への橋渡しとなる重要作。

 第四巻

 張作霖。歴史の勉強では、爆殺されたことくらいしか習わない。

 しかしこの人物が満州国に至る近代中国の歴史を背負ってきた人間であり、その物語は、この『中原の虹』という大作をもっても終らない。否、半分に満たないということに気づかされる時、このロマンのあまりのスケールの巨きさに圧倒されてしまう。

 本作品は、張作霖が長城を越え、中原の覇者となるところまでを描き切ろうとする物語である。太祖ヌルハチの子らが長城を越えて清の国を創始する瞬間と、馬賊の王である張作霖が馬上で全軍に長城越えを命ずる瞬間とが、この第四巻大団円にてついに響き合う。

 歴史の反復。勇者の伝説。覇者の浪漫……浅田が書き刻みたかった歴史が、ここに一旦完結を見る。本作品は、堂々、吉川英治文学賞を受賞。

 この物語の続編は、きっと書かれる。いや、同じ作き手によって続きの部分をも記して欲しいと思う。

(2009/02/14)