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素行調査官





題名:素行調査官
作者:笹本稜平
発行:光文社 2008.10.25 初版
価格:\1,700



 笹本警察小説が快調である。『不正侵入』『越境捜査』と続き、ここにきて『素行調査官』と、目新しい素材で警察小説に風穴を開けている感が強い。特に今回の目玉は、警務部と呼ばれる内務調査部署に所属する私立探偵上がりの主人公であろう。

 警察への中途入社などというものはかつて考えられなかったし、世界の探偵小説を見ていても、警察から探偵へという鞍替えはあっても、探偵から警察官を登用するなんてことは、この作品に出会うまで考えられなかった。

 思えば、情報犯罪に対する捜査を扱った『不正侵入』でも、警察らしからぬハイテク女性捜査官と、かつてマル暴出身のアナログオヤジみたいな刑事とのコントラストが楽しかった。

 本書では、元私立探偵の若手捜査官を中心に、彼を引っ張ってきた正義感の強いキャリア、そして監察畑一筋で捜査には一切関わったことのないが段ボールいっぱいの調査資料で定年後に本を出版することを目論んでいる年輩の警察官。一癖も二癖もある、どこかスポイルアウトされたようなはぐれた者たちを配して、警察の正義を問おうというところに笹本稜平の冒険小説にこだわる魂が見えてくるような気がする。

 ましてや再三ぼくも指摘をしてきた人物描写の物足りなさという辺りを、相も変わらず凝りに凝ったプロットの中で、相当に意識し始め、この作家なりにやわらかく血の通ったものに仕上げようという足掻きのようなものも感じられ、好感が持てる作品に仕上がっている。

 絶対の悪に立ち向かう純粋な正義ビジネスとしてのキャリア、彼を助ける職人のような捜査官たち、こうした勧善懲悪の構図の他に、所轄の捜査畑一筋で善悪の間の袋小路に入り込んでしまった中年刑事の登場が、この作品がツイストしてゆくための重要なキーとなる。

 犯罪捜査の中で、警察官なりの出世、報酬というところに行き着く小市民的欲得勘定が、早期に解決したであろう犯罪を複雑な色合いに染めてゆく。絶対的悪の存在が、闇の向こうでさらに蠢く。

 そしてさらには事件の裏に中国マフィア、蛇頭の影が見え隠れする。姿の見えない都市型犯罪をめぐって警察というブラックボックスの内外の陣営が暗闘する。実に隙間のないプロットであり、ジェットコースター的面白さを満載した小説である。

 単純な面白さのベースにあるのが、豊富なアイディアであり、奇抜な発想である。今野敏、佐々木譲などと競って警察小説作家の一群を形成しつつあるのかな、と期待している。一方で国際大型謀略小説を大法螺のように破天荒に描く作家であるが、個人的にはこの警察小説という分野で地道にいい小説を書き続けていただきたい気がする。

 そちらの選択の方が、ゲーム的プロット重視大作よりも、この作家の欠点であった人間描写を豊かにしてゆくことができると確信するゆえである。

(2009/01/25)