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ゼルプの殺人




題名:ゼルプの殺人
原題:Selbs Mord (2001)
作者:ベルンハルト・シュリンク Bernhard Schlink
訳者:岩淵達治、他
発行:小学館 2003.04.20 初版
価格:\1,714


 作者自らがインタビューで言うには、このシリーズはドイツ戦後史三部作にするつもりであった。1987年『ゼルプの裁き』、1992年『ゼルプの欺瞞』。「そろそろ第三部を出す潮時だ。舞台は統一ドイツだ」

 ゲーアハート・ゼルプ、私立探偵。既に七十歳を越えて久しい。今ではほとんど依頼も稀である。これが自分の最後の事件だと覚悟してゆく。老いそのものが重要なテーマになっている。

 ベルリンの壁の向こうから元シュタジィだったと言ってゼルプの息子を名乗る若者が現われる。一方では個人銀行を使ったマネー・ロンダリングとロシアン・マフィアの流入。フリーマントルあたりが取り組んでいるテーマを、より現地感覚で描き、それでいて、政治的であるよりもずっとハードボイルドという個人の歴史に重点を置き、なおかつ生きた街を、工場地帯を、車を、人を書いてゆく。

 緩急を交えたリズムとピッチ。美しいアルプスを見上げるドイツの大自然。多くの民族が交差してゆく街角のような国、統一ドイツ。

 ゼルプを取り巻く老人たちが、まるでトム・ソーヤーとハックルベリィ・フィンの仲間たちのように正義の鉄槌を降り下ろすべく、計画を練り、罠を仕掛け、収拾に苦慮し、迷い、思いやる。犯罪組織にいるわけではない普通の彼らが、最後とも言える冒険に加担してゆく。老いと向かい合い、闘い、心臓発作に恐怖する。

 そして振り返るゼルプはやけに暗い独白を最後に持ってゆく。結局許すことのできなかったナチ時代の自分であり、敗北を重ねてきたという。歳をとるたびに敗北を次には取り戻すのだという信念が奪われてゆく、という悲しい告白が胸を打つ。

 それでも物語には決着が必要と思う。心臓が疲弊して体がいうことをきかなくなる。もう追跡すらままならないのに、それでもその場所に戻って行ってしまう。自己矛盾。届かない決着への望み。罪と正義へのこだわり。許すことのできない過去。

 何とも重たいが、ひたすら胸を打ってくるシリーズ。レクイエムにも似た最後の傑作である。

(2003/06/13)