殺人摩天楼




題名:殺人摩天楼
原題:Gridiron (1995)
作者:Philip Kerr
訳者:東江一紀
発行:新潮文庫 1998.8.1 初版
価格:\895


 「奇才」ということばが最も似つかわしい作家フィリップ・カー。今回は今までのカー・ファンを騒然とさせる問題作であろうなあ。

 ATG系で頑張ってた弱小プロダクションの映画監督がいきなハリウッドに招待されて大資本映画を撮ってしまった……という印象。実際に映画化権は買われているようで、今後カーはこういうドル箱路線を目指すのかと思うと、いくらなんでもショックを隠し切れない。

 影から影へ、闇から闇へと渡り歩く作家なんじゃないかと、自分なりに解釈していた作家だけに、こうもわかりやすい、ハイテク殺人ビルディングの近未来物語を書かれてしまうと、戸惑いやら失望やらでいっぱいになるのである。

 じゃあ、この作品どうかというと十分に面白い。冒険小説としてもかなりのテンポで読める小説だと思う。

 でも低予算で優れた映画を撮った監督が……大資本の参加で金はかかっているものの……B級アクション映画を撮っちまったような読後感。カー・ファン特有の落胆、幻滅はさすがに感じてしまうのである。

 この後カーはどこへ行くのか?

(1998.10.06)
最終更新:2009年01月22日 23:06