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反撃の海峡



題名:反撃の海峡
原題:COLD HARBOUR (1990)
作者:JACK HIGGINS
訳者:後藤安彦
発行:早川書房 1992.1.15 初版
価格:\1,700(本体1,650)

 本の価値、作家の価値は、人によって千差万別だと思うのだが、例えばヒギンズ最近の作品となると、異様に周囲の誰もが口を揃えて「ヒギンズはもう駄目だ」と言っているのである。まあそれに同調してしまえば風当たりも弱くて大変居心地もいいのだが、ぼくはどうもそういう読み手とは、ヒギンズへ向ける視線も、自分の立つ視点も異なるらしいのだ。まあ、違うのは当たり前なのだが、仮にグループ分けをすれば、ぼくは最近のヒギンズ作品をも、敢えて讃えたい側の読み手なのである。

 そのせいか本書は、ぼくには全然非の打ちどころのない面白い作品である。そう書くだけで,周囲の斜めの視線を背中に感じてしまうのではあるが、それでも言いたい。本書は、大変面白く、ぼくの趣味なのです。

 例えば、ドイツ側には、ヒムラー親衛隊長官を主軸とする、ヒットラー暗殺計画へのロンメルの関わりの疑惑がある。一方連合軍側は、素人娘に会議の内容を探り出すように命じておきながら、そこには裏のもくろみがありそうな気配。この条件だけでも十分サスペンスは盛り上あがっているのである。そして、この両者の思惑を裏切る形でのさらなるどんでん返しが起こる辺りから、本書はフルスピードで、ペキンパーの『戦争のはらわた』を思い起こさせるような破滅的な結末へと結びついてゆく。

 また、どの人物も自己矛盾を抱えているという点で、ある種の経歴を感じさせる大人(一体日本の作家にこういう人物像を描ける人が何人いるだろうか?)だし、彼らをあまり書きすぎない故に、本書が痩せぎすに感じられることも、かえってヒギンズの最近の小説における熟練度を感じさせる。

 ただ一つ、ヒギンズの昔からの特徴として言えるのは、人物はそれにも関わらず勧善懲悪であるということ。ドイツ側であろうが連合軍であろうが性根の腐った人物はいるし、屈折の中でも高潔さを喪わない人物だっているのだ。これはぼくは誇張されているとはいえ、逆に買っている部分。単に敵国側の人物を物質のように扱う冒険小説が多い中で(クレイグ・トーマスなどはもろにこれですね(^^;))、ヒギンズは人物の国籍にこだわらない。むしろ性格が先に与えられて、これに背負い立つ国家とか、職業的宿命とかが付随してゆくのだ。だから人物はそれなりに深みのある場合が多い。むしろ何の背景も感じさせない人物はゼロと言ってもいいくらいだ。

 本書のラスト100ページは特にノン・ストップの面白さです。世評を疑い自前の感覚だけで毅然と好きだと言える作家……それがぼくには、最近のヒギンズなのである。

(1992.02.04)