復讐者の帰還



題名:復讐者の帰還
原題:COMES THE DARK STRANGERS (1962)
作者:JACK HIGGINS
訳者:槙野香
発行:二見文庫 1991.9.25 初版
価格:\480(本体\466)

 去年の秋に出たヒギンズ作品の読み残し。極々初期作品であるが、内容はハードボイルドに近い。ショッキングで意味深な出だしといい、街中が敵に回ったような過酷な状況下での、ハードな聞き込み捜査といい、初期作品にしてはよくやっている。雨は墓地にずっと降り続けてているし、朝鮮戦争で記憶を失っていた帰還兵という孤立無縁の主人公は、なかなかヒギンズのハードな部類の作品に迫っている。

 ただ問題は、状況が過酷なせいもあるが、サービスが過ぎて、バイオレンス・シーンや裏切られたり捕獲されたり、銃口を突きつけたり突きつけられたりするシーンがやたら連続する点。まあ、その方が面白いことは面白いのだろうが、まだこの時期のヒギンズは筆に余裕がない、というか、少し忙しすぎる嫌いがあるのだ。

 またせっかくの盛り上がったサスペンスと、読み手の深読みのそのまた裏をかくどんでん返しがあるのに、少し説明的に過ぎる事件の結末や、強引に女性を絡めて恋愛の色彩を強くするなど作品をカラフルに染め上げようとする意図が、空回りしている気がする。かえってそうしたことが作品の質を落としめているように思う。

 サービス過剰に向かわざるを得ない作家としてスタートしたばかりのヒギンズが、それなりに懸命に練りあげた作品ではあると思う。最近にないぎすぎすと死を賭したような主人公像は、恋愛さえ絡まなければ十分ハードで魅力的であったのだが……

(1992.02.09)
最終更新:2009年01月19日 00:05