双生の荒鷲




題名:双生の荒鷲
原題:Flight Of Eagles (1998)
作者:Jack Higgins
訳者:黒原敏行
発行:角川文庫 1999.5.25 初版
価格:\1,000


 ヒギンズひさびさの力作に出会った。70年代のヒギンズはこのレベルの物語を次々に物にしていたのだが、90年代のヒギンズはヒーローものに堕していた。冒険小説の書き手がシリーズものにのめりこむと、えてしてロクでもないことが起こる。量産。惰性。質の低下。新しい見当違いのファン(ミーハー)。

 だからひさびさにヒギンズ自らが登場してプロローグとエピローグを受け持ち、本筋は第二次大戦のあのヨーロッパの飛行士たちに委ねる、というこの構成、筋書きは、ヒギンズの年齢のイギリス冒険作家たちに読者が求めている本質的な部分ではないだろうか。

 英独空軍に別れた双子の兄弟が英仏海峡を挟んで運命に翻弄される。簡単に言えばそれだけの話である。アイゼンハワー暗殺という題材はクライマックスを彩りはするが、『鷲は舞い降りた』のチャーチル暗殺のような明確な主題ではない。あくまでこの本は兄弟の生きざまの記録であり、ヒギンズの(なけなしの?)良心であるように思う。 

 佐々木譲『鷲と虎』はあの『ベルリン飛行指令』と同じ作者とはとても思えぬほど、飛行機乗りの心情が描けていない失敗作だと思うが、ヒギンズの飛行機乗りは、今までの彼の描く飛行機乗りのほとんどがそうであったように、多くのものを捨て去った頑ななまでの純粋さで、読者を魅了する。空が人間を変える、とでも言いたくなるくらいに。

 そうした空の普遍的な純朴と、荒廃したあの時代が接したところに不幸があり、運命があり、ドラマが生じる。空と海の男たちの心情が出会うところも、『鷲は舞い降りた』に共通するところがある。イギリス冒険小説の王道は、自然と策謀とを敵にした主人公が持てるすべての知力を尽くして戦うことにあると思うし、これはそれらを満たすひさびさヒギンズ節である。冒険小説の原点に戻ったような、懐かしいような佳作なのである。

(1999.08.29)