臓器農場





題名:臓器農場
作者:帚木蓬生
発行:新潮ミステリー倶楽部 1993.5.20 初版
価格:\1,600



 題名がすべてを表わしている医学サスペンスなので、ドンデン返しがないといやだなあ、という向きには薦められないけど、小説的経緯を楽しめる向きには、かなりできがいい作品であると思う。少なくとも、ここのところ帚木蓬生が失っていたスピード感のある筆運びが、この作品においては帰ってきていると言える。もともとスピード感のある作風じゃあないのだが、読ませる力量は十分にある作家なので、これが物語性としてきちんと積み上げられているとなかなか読み応えというものはあるように思うのである。

 そして今回の作品は登場人物がいろいろ取りそろえられていることが最大の魅力であると思う。主人公が新米看護婦で彼女は病院にケーブルカーで通勤するのだけど、こういう設定が、舞台となる病院や町の上を流れる季節を上手に利用できるので、中でも美しい風景の描写は登場人物たちの心象風景と重なって奇麗な心の写真へと移って行く。こういうリリシズムはこの作家の最大の魅力で、ぼくはデビュー作から一貫してこのリリシズムを追って帚木蓬生を読んできた。

 大体が医療現場での人間の生と死、いのちの尊厳といった生臭い素材を選んでいる作家だけに、リリシズム溢れる文体というのは、小説としての優れたフィルターであると思う。まあ、フィルターにかけられてても、この小説の主題は十分に重かったけれども。でも、ケーブルカーの運転をするハンディキャッパーの青年の心情の優しさには、ぼくは何度も感動してしまったなあ。

 あまりにストレートな感動シーンなので、少々クサイよと言われてしまいそうだが、ぼくはこういう子供のような純真さに出会うと、本当に弱いのである。看護婦の白衣というイメージが、小児科病棟という医療現場の中でまさに天使に繋がったりもするし、大勢の小児患者たちの一喜一憂にぼくはけっこう心を揺すられてしまった。この辺は個人的にずいぶんとこの本の受け取り方が違って来ちゃうのだろうなあ、と思います。とにかく根底から、優しさに溢れた本であります。

(1993.06.06)