告白





題名:告白
作者:湊かなえ
発行:双葉社 2008.08.10 初版 2008.11.05 9刷
価格:\1,400



 『このミステリーがすごい!2009年版』でもぼくはアンケート回答しているのだが、国内作品は総崩れ、回答者たちとの趣味がどんどん乖離している現状のなか、ベスト作品中気になるものをチェックして、イメージだけで言えばこの小説『告白』がそのフィルターに引っかかったのである。

 図書館に予約を入れようとすると既に60人以上の列ができているらしく即座に諦め、書店に走り、買い込んで来て即座に読み始める。

 いきなり教師の生徒たちへの終業式挨拶の口語体で始まる。この50ページほどの章が、一つの短篇小説として小説推理新人賞を受賞したのである。少し退屈な感じがしたが、ラストは確かに衝撃的である。短篇小説としては、だけど。

 さらに視点を変えていくつもの短篇小説の形が連作となり、大きな長篇小説に育ってゆく。長篇としては短い作品だし、主題もこじんまりとしたものなので、さらっと読めてしまう。

 本書がよく売れよく読まれた原因の一つとして、『このミス』座談会では、TV番組「王様のブランチ」で優香が絶賛した効果が大きいと言っているが、そうした番組で取り上げられるような題材の小説であるとは思う。少年犯罪。遺族の恩讐。少年犯罪に至る教育の現場。家族という重たすぎる問題。現代日本人の抱える極めて身近な、いわばワイドショー的な食材をどんどん継ぎ足してゆく異色なグルメ料理のようである。

 これを書けば売れる、という題材があるなら、まさに本書なのかな、と思う。だから現在の日本での普遍性はあると思うが、ではこれが構成語り継がれる名作になるかと言われれば、時代を飛び越えて読み継がれるほどの力は秘めていないと思う。それを普遍化して傑作の名を残すには、もう少しブンガクの力が必要なのではないかと思う。

 そこらあたりが『このミス』の今年(イマ!)にこだわった読み手たちと、ぼくのような普遍を求めたがる読者との選評の違いになるのだろう。

 桜庭一樹の『ファミリー・ポートレイト』を読んだ後にこの本を読むと、青春の現代的問題を時代を超えたエネルギーに変えてみせる桜庭腕力の豪快さと、この作家のイマだからこその受けを狙ったコンパクトさがあまりに対比されて少々悲しいほどにその差が膨大なように見えてくる。この作家にとっては桜庭のような本の書き手は天敵になるのだろうな、と思う。

この作家に限らず、多くの小説家は、最近富に、食材選びに血道を上げ、しっかりとした味付けを怠る嫌いがあるように思う。出版社が引いた線路を時には逸脱する豪腕というものを作家は、独自に持たねばならないのではないだろうか。もちろんその加重を支えるほどの熱く焼けた鉄路を有していなければ、成り立たない哲学ではあるけれども。

 ちなみにプロットはよく出てきている。ラストの意外なクロージングも、とても皮肉でブラックで、良かったと思う。

 おまけに、次作も(今週新聞広告で発見!)また少女を主人公にした問題作のようである。今を重視した題材で多くの読者を掴んでゆく作家なのだ。ぜひとも時代を超え、普遍化を目指し、翔べ!

(2008/12/23)
最終更新:2008年12月23日 23:39