悪夢のバカンス



題名:悪夢のバカンス(上・下)
原題:SAVAGES
作者:SHIRLEY CONRAN
訳者:山本やよい
発行:新潮文庫 1991年6月25日 初版
定価:各\680(各\660)

 いやあ、本当に大変時間がかかってしまった(^^;)。 SYSOPになって忙しいというのもある。和歌山に遊びにいったというのもある。死んだ弟の初盆が絡んでいろいろ忙しかったというのもある。けど、時間は異常にかかり過ぎた。何故か? それはこの本のせいだ。これは時間がかかる本なのではないだろうか? 厚みはもちろん上下併せて千ページ以上ある。しかし本のせいというのはそういう物理的な意味ではなく、あくまで内容のことなのだ。うーむ、これは大変読むのに時間がかかる本であったのだ。おまけにこいつは面白いと来ている!

 ストーリーは単純。金持ちマダム5人衆が南海の孤島でクーデターに出くわし、旦那方を殺されジャングルに逃げ込む……彼女たちの運命や如何に、である。なんとも呆気ない話なのだが、ではこのシンプルで素晴らしい設定から、あなたならどんな小説が書けますか? まあこのような問題を何百人という作家志望の人々に提出したとしよう。この本はその中でグランプリを獲得しそうな本である。もしそれが駄目だとしても、最悪敢闘賞を受賞できることだけは間違いないだろう。ぼくはこの本を読んでいてふと気づいたのだけど、今、ぼくが望んでいるのはこのような敢闘賞を受賞できるタイプの作家であったのかもしれないということなのだ。

 敢闘賞というのはもう本当に敢闘賞であって、書き手の努力なくしてはこの本の価値は全くあり得ないし、ぼくらはよくもまあここまでと思われるような事細かな叙述につきあってゆくことで、5人の女性たちのサバイバルをとてもリアルな気持ちで、スリリングに味わってゆくことができるのだ。当然読者の側にも敢闘精神は要求されることで、出だしのじわじわと危機に近づいてゆくプロローグのディテールを楽しめない方だと、そもそもこの本全体の価値を理解することもできないのではないかと思う。すらすらと読みやすい、事件と偶発性に満ちたサービス満載の書き方では決してないし、むしろ抑制に満ちた語り口で、数々の危機とその克服を地道に描いてゆく。かくいう危機も克服も読んで行くに連れトーンが増すばかりで、最後の最後まで心臓が締めつけられるようなドラマが続くのだ。ぼくはこれを軽くすらすらと読めるようなタッチでは決して書いて欲しくないのであり、だからこそこの本は素晴らしくも重厚な冒険小説なのだ。

 これまでサバイバルものといえどもいろいろあったけど、うう、これはサバイバルものの一つの頂点ではないだろうか? 「ロビンソン・クルーソー」や「十五少年漂流記」に胸の高鳴りを覚えた少年少女が、大人になったらこういう本を読むんだよなあ、といわんばかりの、これは凄玉本だ。しかし前半が長かったので、後日談もさぞかしと、ずーっと楽しみに読んできたぼくは、最後に一体どんな気持ちを味わったと思いますか?>読んだ皆さん(^^;) 

 ではでは今年最高(であろうな(^^;) )の「純」冒険小説ということで、自信を持ってオススメするSYSOPからひとこと。

 「時間をかけてゆっくり読んでね」絶対にディテールを味わえます(^_^)

(1991.08.11)
最終更新:2008年12月14日 22:18