グラニテ





題名:グラニテ
作者:永井するみ
発行:集英社 2008.07.30 初版
価格:\1,800



 【グラニテ】果汁や砂糖、またはリキュールなどを加えて作ったシャーベット状の氷菓。コース料理の口直しや、デザートとして供されるもの。

シャーベットよりは少し粗めの氷菓であるらしい。三十分おきに冷凍庫から取り出して、掻き回さねばならないという、随分世話の焼けるデザートである。だから氷菓を作ってあげる相手にはそれなりの愛情が必要になりそうだ。片手間に作ると失敗してしまう、大変に厄介な代物なのである。

 母と娘の葛藤の話と言ってしまう方が、本書はわかりやすい。父は事故死して久しい。娘は自立し、母の若い愛人である映画監督から映画女優に起用されようとしている。母は、それに反対の立場を取るのだが、それは愛人を争う女の戦いのようである。

 一方で亡き夫の友人であるオーケストラ指揮者が、この三角関係にさらに複雑な紋様を刻もうとする。映画監督、新人女優、指揮者。自由な恋愛が許される立場ではない。マスコミのカメラに常に曝される存在であると思う。だが、彼らにはあまりその自覚がないように思われる。都合の良い有名人たちであるように思われる。

 周囲に有名人ばかりを配して、軸の中心には、母であり女である主人公が立っている。彼女は菓子作りを趣味としていたが、菓子を供する店を出して以来、事業に成功し、今では三軒のカフェを切り盛りし、なおかつ若い映画監督の愛人との逢瀬を繰り返す。娘は映画女優の才能と美貌とを兼ね備えている。

 本当に都合の良すぎる設定は、ひと頃のトレンディ・ドラマを思わせるものがある。東京に住む若者は皆、高給を取り、カタカナ会社の第一線で仕事をし、家賃が百万円くらいかかりそうなアーバン・マンションに素敵なインテリアと一緒に暮らして、シックなバーで毎夜美しい女たちとカクテルを飲む。そんなトレンディ・ドラマの妖しさ、非現実ぶりが、最近の永井するみの定番になってきたような気がする。

 かつては農業ミステリや、環境保護ミステリ作家として土臭い作家だった彼女は、現在ミステリでもなければ、社会派とも呼べない女たちの仮想現実を生きるようになってきた。松本清張の直系ミステリ作家としての期待を込めていたのだが、多くの作家と同じように彼女も変遷してきた。

 本書では、グラニテのように掻き回すことをやめてしまったゆえに、娘という氷菓が崩れ、彼女のもとを離れてゆく。

 作品たちもまた、グラニテのように、違った形として違う読者に向けて供されるようになっていったのだと思う。掻き回すことはやめていない。丹念に作品を作る姿勢は変わらない。でも確実にビターな風味は失われ、どこまでも甘く女性向きな風味と色調で惑わすような氷菓になってしまった、というだけのことである。

(2008/11/22)