TOKAGE 特殊遊撃捜査隊





題名:TOKAGE 特殊遊撃捜査隊
作者:今野 敏
発行:朝日新聞社 2008.01.30 初版
価格:\1,500



 『隠蔽捜査』で、一躍警察小説の大家になってしまった印象のある著者の多作家ぶりは相変わらずなので、ある程度ジャンルを純警察小説というものに絞って読もうと考えている。『心霊捜査』とか、前からやっているシリーズものなどは、心の負担になりそうなので、現在のところ横に置いておこう。

 そんな心境で手に取ったのが、本書。警察小説をまた新しい切り口で開いてくれるものかと期待した部分には手が届いていない部分のある作品だったが、別の意味での収穫は確実にあった。

 タイトルからはTOKAGEという特殊な部署に、鋭く重心を置いた新手の物語と予想されるのだが、意外や意外の内容で、こちらに関してはすっかり肩透かしを食らう。

 内容は、銀行をターゲットにした誘拐犯罪一本であり、前置きも何もなく、情緒もクソもなく(失礼!)、ただただ事件そのものを追跡した小説なのである。主人公らしき単独ヒーローはどこにもいないので、誰に焦点を絞るでもなく、章ごとに切り替わる三名ほどの視点で事件は綴られる。

 主に捜査本部、銀行内現場担当、新聞記者といった三つの目線である。

 事件そのものは、銀行職員三名の同時誘拐、その要求内容の風変わりな点では、これまでにない誘拐小説である。余計な情緒もクソもないだけに(失礼!)、スピーディに展開する謎めいた犯人とのやりとりを、読者は面白さという一点で読んでゆくことができる。

 バブル時代の前後を通じての銀行の悪、という題材が小説に社会派的な空気をもたらしてはいるように見えるものの、一つの切り口に過ぎず、十分なインパクトまでは持っていない。犯罪の動機、というところにもっと期待したのだが、インテリ風に見えながらお粗末な犯人像であった、というのが読後の感想。

 スピーディでテンポよく読める軽クライム小説としてはいいのだろうが、せっかくの警察小説の大家としての継続性という意味では大いに疑問に感じる。これだけの題材。突き詰めれば松本清張の領域にまで踏み込めるはずの闇に敢えて踏み込まず表層だけをなぞったような娯楽面重視というところがとても残念。

 今野敏という作家の小説スタイルの以前からの問題点を久々に感じてしまった作品であった。

 面白いのにけなす、って、我ながら相当につむじ曲がり、だとは自覚した上で……。

(2008/11/09)
最終更新:2008年11月09日 21:54