墓標なき墓場  高城 高全集 1





題名:墓標なき墓場  高城 高全集 1
作者:高城 高
発行:創元推理文庫 2008.02.29 初版
価格:\580



 霧の街・釧路がハードボイルドの舞台として格好であった時代。太平洋炭鉱が海底から石炭を掘削し、サンマ漁で港湾は賑わい、街のいくつもの映画館で裕次郎がかかり、繁華街は現在の歌舞伎町のように賑わっていたという。

 夜の闇の中で船員同士の喧嘩がマキリによる殺傷事件に変わっても、日常茶飯のこととして警察もろくすっぽ調べもしなかったという。流れ者やヤクザ者が巷に溢れ返っていた昭和33年という時代。

 著者は北海道新聞釧路支局に勤務しており、本書の主人公は網走支局に追われた支局長・江口が、釧路での連続殺人事件を探りに、3年前の事件を掘り起こそうと旅に出るところから始まる。

 根室や花崎といったさいはての漁港の描写、釧路の太平洋側にある春採湖で出会う少女との束の間のロマンティックな一幕など、映像化されてもいいような生粋のハードボイルドである。

 大藪春彦よりも先に日本にハードボイルドを持ち込んだ作家だという意味がよくわかる、著者唯一の長編作品。素晴らしい。

 時を超えて甦った本書の企画を立ち上げた人に、とにかく喝采を送りたい。そしてまた現在時点でなお文庫版あとがきを書いてくれた作家その人に対しても。

(2008/11/03)
最終更新:2008年11月03日 22:40