ヒトリシズカ





題名:ヒトリシズカ
作者:誉田哲也
発行:双葉社 2008.10.26 初版
価格:\1,500



 誉田哲也は、まだあまり短篇小説を書いていない。『シンメトリー』という短篇小説集は、女刑事・姫川玲子をヒロインとした連作短篇小説集だし、本書もまた静香という謎めいた少女をヒロインとした連作短篇小説集であり、さらに全短篇を読み終えたところですべてが繋がり、全体が長篇小説のような起承転結を持っているという点をみれば、厳密な意味での短篇小説ではなく、少し途中まで解体してしまった長篇小説、という風に見える。

 悪女、という概念は、従来のハードボイルド小説によく出てくる「宿命の女」(ファム・ファタール)のイメージが強いが、最近現代日本小説においては、そのイメージはひたすら変容を遂げているように見える。

 最近ことに悪女小説の分野を切り拓き続けている桐野夏生で言えば『アイム ソーリー ママ』などは、連作短篇集の形をとった、女性版連続殺人者(シリアル・キラー)の恐ろしいお話だ。

 トマス・ハリス著『羊たちの沈黙』に代表されるように、FBIによるプロファイルングという新たな心理学的捜査方法が小説の世界でも盛んになった頃、プロファイラーたちの書いた本によれば、気質的連続殺人者は男性にしか存在しない、という統計があったと思う。

 それをぶち壊したのがミネット・ウォルターズ『女彫刻家』だったが、この作家は現実主義者というよりはストーリーテラーなのでいいのかな、とこちらは捉えていた。

 しかし桐野夏生の『OUT』あたりから、情動的殺人という女性的なモチーフから離れ、女性たちは、より異なる理由のために殺人や暴力に走るようになったと思う。少なくとも日本ミステリーの世界では。それを裏づけるかのように、世の中のニュースにも、金や愛憎のもつれではなく、純粋にエゴのために冷血に他者を殺すという女性殺人者たちの姿が垣間見られるようになった気がする。

 そうした乾いた世界観のなかで、作家たちが何を描くかというあたりには注目すべきであると思うのだが、本書では、あくまでクールで冷血で残虐な女性の影を追いかけてゆき、その果てに、一人の女の真実、というようなものに辿り着くことになる。

 読者は、複雑な心境に捉えられページを閉じることになる。

桐野夏生のような女性作家は、乾いた、冷血の極限、あるいは怪物性までをも秘めた徹底的な悪女小説を描くことができる。しかし、誉田哲也のような、女性にある強さ、理想、タフを見てしまう男性作家は、どうしても悪女小説のなかに、母・姉といった甘さを掘り出してしまうのかもしれない。

(2008/11/03)