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北東の大地、逃亡の西




題名:北東の大地、逃亡の西
原題:Controlled Burn (2005)
作者:スコット・ウォルヴン Scott Wolven
訳者:七搦理美子
発行:ハヤカワ・ミステリ 2007.11.10 初版
価格:\1,300


 スコット・ウォルヴンは、『ベスト・アメリカン・ミステリ』の常連。オットー・ペンズラーが全米の短篇小説を絞りに絞り、毎年、ゲスト編集者(有名作家が多い)により最終20作をチョイスしたものがこの『ベスト・アメリカン・ミステリ』である。ゲストの作家の好みが反映される傾向が強いとぼくは感じているのだが、ここ数年、毎年のように名前が登場する作家がこのスコット・ウォルヴンである。言わばどの傾向の作家であれ、ウォルヴンという作家を最終選考で残してしまうというミラクルが継続中であるわけだ。それも5年も6年もである。凄い!

 そのスコット・ウォルヴンは基本的に短編小説家であり、もともとがネットに作品を載せていたところを、着目されてしまったという変わった経歴の持ち主。また彼の書く作品の舞台は極めて限られた土地のもので、バーモント州やアイダホ州がほとんどだ。

 アメリカとは巨大な田舎だ、と、アメリカに行ったことのないぼくは、映画や小説からそう理解しているのだが、それは北海道にも似通ったものを感じるからだ。大きな使いようのない土地。車なら一分で通り過ぎてしまえるような孤立した小さな集落。ブルーカラーしか生きようのない情報の遮断された不便な土地と、文化や教育機会の欠落。貧困にいつも曝されるために自給自足の力を借りなければ生き延びることさえできない隔絶感覚。生命を脅かすほどの厳冬に見舞われる厳しい気候。それらすべてにおいて共通項をイメージすることができないわけではない。

 しかし映画でよく見るようなディープ・サウスのレッド・ネック、死や暴力をもたらすまでの人種差別、強烈な宗教への依存度、何よりも暴力の象徴たる銃器への依存度たるや、北海道からはやはり遠く離れて、そこはアメリカだと思わせるようなある種の絶望感がウォルヴンの作品には強く感じられてならない。

 一方で誠実で生真面目で一生を一つの場所で送り一つの仕事に従事するような定住者たちがいるからこそ、彼らの土地や生活を脅かす放浪者、アウトローたちの存在が、対極に常に存在しているのかもしれない。都会ではあまり見ることのできない構図が、きつく貧しい生活、労働環境につきまとい、生きてゆくための苦しみや痛みの中で、容赦なく追い詰められるがゆえに生じてしまう犯罪、葛藤などが、ヒューマンな物語や残酷な物語を生んでしまうのだろう。

 この短編集は基本的には犯罪に関わるものが多いが、中には事故、運命などの皮肉、避けられない超常的な力さえ感じられるものまでが含まれており、全体的にポケミスの分野に本来はとどまらない作品集であるように感じられたりもするのである。ただ、どこにも権力を初めとする力、権利、金などを持つ者たちの姿は見当たらない。あくまでも最底辺のところであがこうとする者たちが、高い空を見上げるような物語であるからこそ、胸を打つ作品集になっているのだと、ぼくは思う。

(2008/10/19)