二度目の破滅



題名:二度目の破滅
原題:Perish Twice (2000)
著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:奥村章子
発行:ハヤカワ文庫HM 2001.9.15 初版
価格:\760

 ロバート・B・パーカーという作家がアメリカでベストセラーだということはわかる。しかしその読者層はどういったところなのだろうか? アメリカでどういう人たちにこの作家は人気があるのだろうか。

 そんなことを思うのも、いつもスペンサーがスーザンを相手に、男女の自立の問題、恋愛の問題、セックスの問題などに取り組みつつ、スペンサーはむしろマチズモ、レイチェル・ウォーレスはフェミニズムといった、かなりの男女間の理解の距離を埋める作業に、パーカー作品の主人公らは苦労しているように見受けられるからだ。

 サニー・ランドル・シリーズではむしろ女性主人公という一擲の礫によって、ただでさえ波紋の多い彼のハードボイルド世界にさらに波風を立てようとしているかに見える。ある意味でフェミニストが努髪天を衝くような描写の数々が、パーカー作品のあちこちにあるんじゃなかろうかとも思えてしまう。フェミニストと言ったって様々な人々がいるのだとは思うし、フェミニストがどんなシーンで怒ってしまうのか、ぼくにはわからない。

 しかしこの作品の珠玉のシーンは、ぼくはラスト一行だと思う。ヒロインに同化して泣けてきそうになった。あるいはヒロインが愛らしくて抱き締めたくなった。そういうシーンは女性としてというより人間的な魅力をと声を大にしたところで、過激なフェミニストから見れば、きっと許しがたい女性蔑視というか、女性は弱い者と決め着ける男の側の勝手な言い草だという風に片づけられてしまうのではないだろうか。そんな要らぬ心配をしてしまう。他の数ある、「女性だから」「女性ゆえに」等の描写の数々についても同様に。

 だからアメリカのどんな読者層がこういう本を手に取って、パーカーをベストセラー作家の立場に長い年月の間キープさせ続けているのだろうと、ぼくは思ってしまうのだ。単純にミステリー好きの人々だけでは考えにくい、多くの一般の人々が読者層として取り込まれているのではないかとぼくは思う。

 実にアメリカ的なフェミニズムの問題、女性ゆえの職業上の苦労、家族たちへの気苦労、彼女の親友であるハードゲイ。いろいろな意味で、パトリシア・コーンウェルがなぜベストセラー作家であるのかといった地平に繋がる何ものかを感じ取ることができる。このジェンダー・フリーの時代に、最も読まれている作家の一人が、かつてマチズモでならしたアメリカ一の侠気作家であるというあたりが、実に興味深い現象なのだ。

 ただそれにしても、読者としてはこれだけは言える。最後の一行で読者を泣かせてしまうような芸当は、誰にでも簡単にできることではない、と。