赤×ピンク


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題名:赤×ピンク
作者:桜庭一樹
発行:角川文庫 2008.02.25 初刷 ファミ通文庫 2003.02 初版
価格:\314


 直木賞を受賞したりすると、埋もれてしまった作品が、メジャーな出版社から復活することがあるのだ。本書はまさにその対象となった作品。作者は、かつてファミ通文庫で読んでくれた読者と、復刊となったばかりの本書を読んだ、ぼくのような新しい読者との両方に、感謝の意を表し、素直に喜んでいる。自分の書いた作品が、多くの地平に拡がってゆくのだ。それは嬉しいに違いない。

 本書は、格闘技に生きる女の子たちの物語である。いつも大抵は、ガールズが主役である桜庭ワールドだが、どのガールズも決して生易しくない、そんじょそこらの男なんかよりよほどハードでタフな暮らしぶりをしている。もちろん桜庭一樹だって空手道場に通って組み手なんかをやっており、始終、体中を痣だらけにしているのだそうだ。

 本書の格闘技は、空手の持つスポーツライクな技の要素の上に、プロレス要素や泥レス要素が加わる。要するに純然たる興行であり、スポーツではないのだ。怪しげな闇の興行団体である。夜ごと六本木の廃校跡地校庭にかがり火を焚き、ネオナチの格好をしたウエイターがドリンクを客席に配っているらしい。コスプレに身を固めた闘うガールズたちは、闘いの檻に入るまで指名のあった客の横に手錠で繋がれたりもする。本当に怪しい。

 これを男の作家が書けば、変態小説の謗りを免れないかもしれないが、女性作家が書くことによって、全く空気は別のものになる。三人の少女の連作物語でできあがった一編の繋がりあるストーリー。それは、個性豊かでありながら、それぞれに浅からぬ傷を抱えた少女たちの、心の戦いの物語でもあって、そして彼女たちは、若く、美しく、逞しい。体を鍛え、鍛錬によって心も研ぎ澄まされた武士のような気配を身に着けた、それでいながら現代の少女たち。

 世界からスポイルアウトされて、自分らの生き場所は、泥に塗れた檻の中、怪しげなスポットライトと、怪しげな観客たちの熱狂のエールの中にしか見出すことができない。

 とても短い物語でありながら、圧倒的に記憶に残る物語設定をやってのける個性の鋭さは、『少女には向かない職業』『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』に共通するハードボイルド・ガールズ小説の趣きと同じ緊張を全編に漂わせ、極めて孤高だ。

 インディーズな文庫にかつてこのレベルの作品が収録されているのなら、全部読みたいと言う気になるのも当然ではないだろうか。

(2008/05/18)