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ルインズ 廃墟の奥へ





題名:ルインズ 廃墟の奥へ 上/下
原題:The Ruins (2006)
作者:スコット・スミス Scott Smith
訳者:近藤純夫
発行:扶桑社ミステリー 2007.02.29 初版
価格:各\733

 あの頃『シンプル・プラン』に熱狂した人ならば、この作家の存在を忘れることは決してないだろう。シンプルなストーリーなのに、そのくらいインパクトを残した世界的スリラーの傑作である。サム・ライミ監督により映画化されもした。残念ながら映画のほうは未鑑賞なのだが、あの小説的傑作への映画化に対する期待と恐れとの葛藤が自分の中で強すぎて、手元にはだいぶ以前からDVDがあるというのに、鑑賞の勇気が未だに持てないでいるのだ。

 スコット・スミスに関して言えば、二作目の噂さえ入手できないままに、長年月を経過してしまっていた。しかし、あの伝説のスリラー作家は、今度はまたとんでもない作品を引っさげて復活してきたのである。巻末解説によれば、二作目を何度も何度も書こうとしたのの、どれも巧く行かず、脚本に逃げた。しかし脚本の方も、どれ一つとして完成させることができず、結局、プロットへのこだわりをやめて、先を考えずに書き出した作品である本書が、ついに13年ぶりの二作目として生まれたのだそうである。

 それもそうだろう。この作家の粘着力の強いディテール描写ぶり、と言ったらまるで病的にさえ感じられるほどである。プロットを組み立てて書く、というよりも語りを始めることで、物語が生成してゆくタイプの作家なのではあるまいか。  事件や物語そのものは、ちょっとしたことに端を発する小さなものであるが、一つ一つの出来事を積み重ねてゆくうちに、どんどん深みにはまって行く登場人物たちの恐怖心理、情動の不安定といったところが次第に研ぎすまされてゆく。そのあたりの描写と言ったら、もう尋常ではない。

 心理学と文学とをカレッジで学んだという作者経歴だけあって、心が異常な方向へ動いてゆく時の人間の不可解さにより、物語そのものが捻じ曲がって行く狂気の凄みに関しては、ある種天才を感じさせるものがある。まさしく大御所スティーヴン・キングが、その才能を桁外れだと絶賛するだけのことが確かにある。

さて、本書『ルインズ 廃墟の奥へ』だが、ほぼタイトル通りで、数人の登場人物たちが、あるきっかけからジャングルの奥地にある廃墟へ迷い込んでゆき、そこで地獄の釜の蓋を開けてしまう、という集団恐怖小説である。

メキシコ、マヤ族の農地の奥に、インディ・ジョーンズが登場しそうな古代の廃墟が眠っているという。とにかくその場所が、とにかく怪しい。最初から、周囲の人物に注意され、止められるほど怪しいのだが、何がそれほど危険で、緊張の原因となっているのか、その正体は、なかなか露わにならない。

 正直、ぼくがこの作家に期待していたのは、こうした秘境ものではなく、コーエン兄弟好みの一作目を彷彿とさせる犯罪小説であった。しかし、そういう路線とはまるで異なり、ホラーという点への徹底こだわりぶり見せつけてくれる今回のスコット・スミスは、現実的恐怖からは180度方向を変えて、この手の直球型秘境冒険ホラー小説を作ってしまったのである。

 その上、『ルインズ』というタイトルからは、廃墟そのものを想像してしまうのに、実際に登場人物たちがぶつかるのは、廃墟というよりは、ある特殊な自然環境の数々であり、ある強力な正体不明の敵である。興を殺ぐので、詳しいことについては書けないのだが、少し意外なほど独創的な敵を相手にしているうちに、登場人物たちは過酷な状況を自らも作り出していってしまう。 外部の強大な敵という以上に、自滅という言葉が似合いそうなほどに、自らの心の中の敵のほうが手ごわく感じられる点は、やはりあの『シンプル・プラン』のスコット・スミス健在なり! と懐かしさ、嬉しさとで、目を細めてしまいそうである。

 ぼくは、ホラーそのものの読者ではないのだが、あの『シンプル・プラン』の作者の二作目、という視点にこだわって、本書では彼らしさを随所に捉える歓びを感じつつ、読み進めて行った。圧倒的な物語の求心力もさることながら、語り口の巧さ、物語のシンプルで揺るぎない一貫性。そうしたこちら側の期待に十分こたえてくれる超面白小説だったことが、何よりも嬉しかった。再会に乾杯! と行きたいところだ。

(2008/04/20)