湖水に消える



題名:湖水に消える
原題:Death in Paradise (2001)
著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:菊池 光
発行:早川書房 2002.4.15 初版
価格:\2,000

 パーカーのいろいろな新しい試みをここ数年味わい続けている気がする。女性主人公に取り組んだサニー・ランドル・シリーズ。ウエスタン『ガンマンの伝説』。スペンサー・シリーズの中での作品ごとの活劇度増加。その他いろいろ。その中でも最も実験的に見えるのがこのジェッシィ・ストーンのシリーズだ。

 寡黙な主人公。ボストンには近いが小さな田舎町であるパラダイス。アル中保安官。三人称視点。離婚していながら、元妻との距離と接点が交錯する多重生活。惜しみない銃撃と審判。スペンサーとつかず離れずのリズムも持たせながら、ある意味スペンサーではできないことを多くこの主人公に担わせているようでもある。

 三人称視点で活劇中心に描いた前作のど派手な部分を削り取って、すっかりパラダイスの町に落ち着き、地元のソフトボール・チームに混じって軽いプレイを楽しむジェッシィ。まるでマット・スカダーのようにアル中のコンサルタントに頼り、自分と戦わねばならないジェッシイ。女性たちとの出会い、誘惑、距離、何よりも夕暮れの海を見つめる孤独。

 それらの生活という肉を纏いつつ、メイン・ストーリーである少女の殺人犯人を追うのが今回の地味めなストーリー。地道な捜査。スペンサー・シリーズでもお馴染みのジノ・フィッシュやビニイ・モリスのアジトに踏み込むジェッシィ。イージー・リーディングの楽しみのすべてを備えた快作。

 前作を読み終えた時点では、この小さな町で今後いったいどんな事件を期待できるのかといぶかった自分を思い出す。例えツインピークスのような小さな町であろうと、少女の遺体は湖から発見されるし、都会からの多くの悪夢たちが必ず浸透してくるというところまで想像できなかったのだ。このシリーズはさらに安定期を迎えるに違いない。
最終更新:2006年12月10日 21:33