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シンメトリー






題名:シンメトリー
作者:誉田哲也
発行:光文社 2008.02.25 初版
価格:\1,500




 実際に、購入して手に取るまでは、この本が短編集だとはわからなかった。帯やタイトルでそのことの記述がないことに、版元に対する消費者側としての若干の不審の念を抱くが、これは小説家の責任ではない。

 短編集と言っても、いずれも姫川玲子をヒロインとしたシリーズものである。『ストロベリー・ナイト』『ソウルケイジ』に続き、一年一作くらいのペースで長丁場が期待できるシリーズとなることを願うが、こうした短編を書いている様子から見ると、作者は時間をかけてヒロインやバイブレーターたちのキャラや歴史を固めているのだろう。

 2004年10月から2008年1月までの短編集が収められているのを見れば、姫川玲子というキャラは、もう4年も前から登場していたということになる。2006年に発表された長篇第一作の『ストロベリー・ナイト』では、姫川玲子は、過去に犯罪の被害者となった経験を持つために、警察官になって犯罪と闘おうと強く決意したキャラと紹介された。2004年の短篇作品でも、玲子のその部分については短く触れているから、このキャラクター・メイクは、やはり最初に登場したときから固められていたのだ。

 そんなシリーズ・ヒロインの誕生の裏側にある作者の造形動機などに興味を抱きながら、いろいろな年代に、どちらかと言えば疎らに書かれ、書き継がれてきた、この短篇小説集を手に取ると、作者が事件を通しての姫川玲子探しの回路を十分に丹念に辿っているのがわかり、やはりこの作者はキャラクターを大切にする作家なのだということが、改めて確認できる気がしてほっとする。

 そうした愛情を込められたヒロインだからこそ、暗い事件、重い事件の数々に、姫川玲子は明るく、強く、颯爽と向き合っていられるのだ。背が高くて、美人で、性格がよく、勘も鋭い、プロフェッショナルな刑事として。

 短編小説のそれぞれは、頑ななまでの捜査小説としての基盤をほとんど崩さない。ハードボイルドで言えばジョー・ゴアズのDKAファイル・シリーズのように、事件に対し職業として向き合う警察組織の姿が淡々と描かれる。その堅い組織の中で光り輝くヒロインでありながら、姫川玲子は職業人として、警察内対立、人間関係、部下たちとの距離感の問題などを常に抱え込んで生きている。リアルな職場としての警察小説であろうとする作者の姿勢は揺るがない。

 しかし短篇小説では、ヒロインを含めたレギュラー陣はどの部分でも脇役に過ぎない。真の作品の主人公はそれぞれに宿命を背負わされ人生を捻じ曲げられてゆく被害者であり、殺人者たちである。現代日本を舞台にした事件の陰には、苦い世相が描かれている。インターネットカフェの長期滞在者、少女売春、麻薬常習者といったよく新聞紙上で見られる人もあれば、どこかの会社や路地裏や都会の奥底で生きていながらスポイルアウトされていった眼に見えぬ社会の理不尽も限りない。

 そうした世相の影に踏み込み、優しさと厳しさを与えてゆく存在として姫川玲子のストレートで真摯なキャラが際立っているのだ。だからこそ、このシリーズにさらなる重みを加える役割を、この連作集はしっかり果たした、という気がするのだろう。

(2008/03/20)