僕を殺した女





題名:僕を殺した女
作者:北川歩実
発行:新潮ミステリー倶楽部 1995.6.20 初刷
価格:\1,400




 小説にはいろいろな面白さと言うのがあるけれど、やっぱり最初から思い切り人の関心を引っ張ってしまうというのは、エンターテインメントの鉄則と言ってもいいのかもしれない。

 朝起きると自分が違うなにものかになっている、と言えばカフカの『変身』、もっと遡ればガリバーの時代からの衝撃のスターティングなのだが、最近では北村薫『スキップ』などはその亜流として記憶に新しいところ。もっとも刊行時期はこちらの方が少しだけ古いか。

 この小説では主人公の少年が朝起きてみると美女になっている。しかも五年という時間が経過している。謎を詰めてゆくと自分が他にいることがわかる。単純に言えばこういうとんでもない話である。確かに殺人や謀略はその陰にあるのだが、むしろこの設定の方が度肝を抜いている。

 ぼくは『スキップ』のようなファンタジー小説はとんと楽しめない口なのだが、この小説のように、自分の怖るべき変身の謎を解いてゆくという設定であるなら話は別。これだけの設定だからかなりの力技が必要で、それなりにご都合主義を感じないでいることは難しいのだが、それ以上によくぞこれだけのプロットを作ったものだと感心の方が先に立った。

 サイコ・サスペンスの味つけが強くて、ダニエル・キースばりの多重人格・幼児虐待にいろいろな要素がプラスアルファしていている、これでもかこれでもかのごった煮小説である。逢坂剛『百舌の叫ぶ夜』に通じるサイコものと考えていいかもしれない。あの手の本が好きな人にはお薦め。

 ぼくはとにかくこういう人間の深層を使ったようなミステリが好きなので、トリックという以上の味わいが嬉しかったりした。新作も読んでみようかという気になってしまう作家である。

(1996.05.25)