ナルキッソスの鏡





題名:ナルキッソスの鏡
作者:小池真理子
発行:集英社文庫 1996.4.20 1刷 1996.11.30 3刷 
価格:\620

 誰にだって自己愛はあるだろうけれど、そういうものも年齢とともに失せてゆく。かく言うぼくも、十代でまだ体重が55kgしかなかった頃は(本当だ、22歳くらいまではガリガリだったのだ)、鏡を見ておのれの若さとかしなやかさみたいなものにほれぼれとしていたもの(^^;)

 その頃なら女装しても違和感のない体形だっただろうけれど、そんな体形が登山とその後の就職してからの痛飲飽食によって崩壊してゆくにつれ、自己愛なんてものはどんどん擦り減っていってしまった。

 美形で自己愛に満ちた青年の物語と、映画『サイコ』ばりのこわーい館の物語が、平行に進んでゆき、やがてこれらが交錯するというのがこの作品。どちらも異常で異常でたまらないストーリーなのでぼくの場合一気読みしてしまったけれど、小池真理子の『夜ごとの闇の奥底で』に似たようなホラーっぽいお話である。 

 海外のサイコパスものに馴らされている身には、この物語の殺人鬼はおよそ有り得そうにないタイプで、何とも物足りない。もちろん自己愛の女装癖の美声年だって、なんか『ジュネ』しちゃっていて、とても幻想的であり、それがまた小池真理子的でもある。

 まあ、これが小池真理子的世界って言えばそれまでで、これを真面目にリアリティの側面から評価したら、この本のプロットなんて音を立てて崩壊しちゃうとも思う。でも直木賞の『恋』だってそれ以外の作品だって、この人の作品はあくまで小池真理子の心の中の無想多き少女趣味ワールドなんだ、と割り切って楽しめば、それなりに楽しめるのであります。

 まあ、これもまた一つのストーリー・テリングの技術、ってことで……。

(1996.12.21)