Cの福音






題名:Cの福音
作者:楡周平
発行:宝島社 1996.2.9 初版 1996.2.26 2版
価格:\1,500

 海外滞在の多い商社マンが貿易業務のなかで思いついた麻薬密売方法だけを思いついて、下手な小説を作ると、結局はこうなるんだ、というばかりの、小説にも何にもなっていない馬鹿げたシロモノがこの本。

 日本では小説そのものよりこの手の亜小説とでもいうべき情報やハウツーをフィクショナルに描いたもの、あるいはこれぞ現代的なんだぜえ、どうだい、どうだいとでも言わんばかりのアホ本が充ち溢れているんだけど、この本なんざ怒りを通り越して呆れてしまうほどのアホ本だと思う。

 もともと大薮春彦からブランド志向だけを取り上げると、クリスタル本レベルの趣味領域を出ないものなのに、その表層ばかりを真似しちゃって本気でこんな文体で書いちゃう作家っているんだなあと思わず関心までしちゃいました。

 この主人公の存在感のなさ、希薄さ、軽さ、そういうものを装飾の多さでぶちこわしにしているのはこの作家の単純さ以外の何物でもないという気がする。だいたいパソコンを前にしてNIFTYを使って売人を操ってまではいいけど、ブツを盗みにゆくことまで自分でやるか? 国際的な巨大組織がバックについているのに、水も漏らさぬほどの戦術をせっかく実行しながら、いきなりそこだけ荒っぽくってリスクの大きな仕事を自分でやっちゃうかあ、と言いたい。

 ゴルゴ13はコミックの世界だから許されるのだし、大薮の主人公は原点だから許されるのである。いまどき新人作家がスーパー主人公でもあるまい。ましてやロマンのロの字も匂わせずに、プロットだけ練っちゃえば作品が出来上がるなんて非常に甘っちょろい感覚さえ感じさせられるのだ。ぼくには今年度最大の罵倒本です。未だに書棚に平積みになっているけれど、世の図書の売れ筋というものほど不思議な現象はないのである。

(1996.05.25)
最終更新:2008年03月20日 14:22