青年のための読書クラブ





題名:青年のための読書クラブ
作者:桜庭一樹
発行:新潮社 2007.06.30 初版
価格:\1,400




 奇妙なタイトルのこの小説は、内容もまた奇妙である。カトリック系女学院の古今にわたるエピソードを、マイナーな部活動である読書クラブ・メンバーの各時代の記録という形で綴った連作短篇小説だ。

 少しばかりトリッキーな短篇が次々と語られるが、ジャンルとしては一般娯楽小説とでもいうような、対象読者を絞りにくい曖昧な部類に属するのだろうか。読中の感覚としては、なぜだか浅田次郎を読んでいるような錯覚を覚えた。

 つまり、これまでの桜庭作品ではないのである。大仰なレトリックを用いた語りすぎの感すらある文体は、ユーモアを交えながら、余裕あるリズムで優雅を意識して書かれているかに見え、それは彩り彩りの時代背景に影響を受けない、社会から隔離された女学園そのものを表すかのように、大正ロマンを想起させる文体である。そうしたところも、何故か浅田次郎だ。

 高校生にしては、まるで社会の縮図であるかのような、ヒエラルキーが歴然と存在する中で、階級闘争やアングラ芝居のような懐かしい時代が、学園にも持ち込まれる。時代時代の背景を映し出す鏡のように、学園内の少女たちの事件が紡ぎ出されてゆく。

 とてもふざけていて荒唐無稽でありながら、ある時代には街頭即興芝居を、ある時代にはジュリアナのお立ち台を、そして現代では地球温暖化や少子高齢化社会を、痛切に皮肉交じりな雄弁に委ねて、本書の物語たちは、奇妙な味のざらついた舌触りをそれぞれに残してゆく。

 いずれ劣らぬ個性溢れるヒロインの群れを歴史の踪跡として背後に残して、学園も時代も通り過ぎ、夢幻のように消え失せてゆく。

 例によって奇抜な女性たちの名前は健在だ。山口十五夜(やまぐち・じゅうごや)、五月雨永遠(さみだれ・とわ)なんて名前は、それだけで印象に残ってしまいそうだ。深く刻印のように、印象的な名を刻んでゆく作家である、桜庭一樹は。

(2008/03/16)
最終更新:2008年03月16日 21:48