少女には向かない職業





題名:少女には向かない職業
作者:桜庭一樹
発行:東京創元社 2005.09.30 初版
価格:\1,400

 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と対を成す作品、と言っていいだろう。まるで双子の姉妹のようによく似た作品である。

 クラスのなかで少し浮いた奇妙な少女と、主人公で、独白者である一人称の少女との奇妙な交友を通じて、二人の奥底に眠っていた熱のようなものが徐々に揮発してゆくような物語。

 二人の対比は、前作によく似ている。奇妙な少女が、風変わりな家庭で危機に瀕している。巻き込まれがたタイプのヒロインは、彼女の影響を受けて、徐々にとんでもない状況に追い込まれてゆく。そこにあるのは、血と暴力。

 惨憺たる悲劇の被害者であった海野藻屑のように運命を甘受するのではなく、似たような役割を与えられながら運命に抵抗しようとするのが、本書のサブ・ヒロイン宮乃下静香である。宮乃下静香には(さつじんしゃ)とルビが振ってある。

 13歳でありながら二人の人間を殺したというモノローグで始まる本書の衝撃は、バラバラ死体になった海野藻屑を発見するところから始まる『砂糖菓子……』と、あまりにも似ている。

 本書は、下関に橋で繋がる島が舞台である。そんな島があるのだろうか。ネットで調べると、彦島というところがヒットする。『300平方キロ』という記述にはそぐわない11平方キロの島なのだが、これだけを見ても舞台は架空かと思える。田舎と都会を往復する少女たちのライフスタイルのようなものが描かれ、この舞台設定がクライマックスの殺人シーンに重要な時空性を持たせてしまう。

 バイオレンスなサスペンスと、少女学園ストーリーが交錯する中で、最後には少女たちの犠牲者としての、家畜のような弱さと理不尽な暴力、それに対抗しようとする闘う意志といったものが描かれている。

 不条理な殺人者と同居する友人との出会いさえなければ、何の変哲もない少女であるはずのヒロインが、友人の家族への不穏な疑問を抱いた瞬間から、世界は色を変えてしまう。少女は闘いを余儀なくされ、学園生活はサバイバルの園へと意味合いを変えてゆく。

 そんな過激な物語を、少女の視点でポップなイメージで描いてゆくから、そのアンバランスさが、小説全体に奇妙な緊張を強いているのだろう。

 不思議な世界を立て続けに描いてみせたこの作家、ライト・ノヴェルから一気に脱却していった、躍動のツイン・ストーリーがここに奇妙な味わいで存在を示している。

(2008/03/16)
最終更新:2008年03月16日 21:47