神々の座を越えて



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題名:神々の座を越えて
作者:谷甲州
発行:ハヤカワ・ミステリワールド 1996.10.31 初版
価格:\2,000(本体\1,942)

『遥かなり神々の座』が出たときにはぼくは興奮した。ここまで山をかける作家はこの時代に他に二人と出ないと確信した。自分が山をやっていただけに、装備・技術等の点のみならず、待ちに帰ってからの山男の心情や山への帰巣本能など、到底山を一度やったことのある人、しかも半端じゃなく一度傾倒した人でなければわからないものごとがたくさんその小説には詰まっていた。

 その後機会を得て作者に会うことができ、実際、上記のようなことをぼくは伝えた。当然『遥かなり』は多方面から喝采を浴びていて、谷甲州氏も山岳冒険小説を書けとの周囲の声が高まって、SF作家としての自分は困る、などとぼやいていた。しかし世の中はさすがにほっておかないらしく、その後も『山と渓谷』に連載は始まるわ、単行本もいつのまにやら山岳冒険小説のみならず山岳小説まで出始めて、ついに新田次郎賞まで受賞しては、もう専門的なSF作家
であると自称するのもそろそろ限界であろうと思われた。

 しかし『遥かなり』以降、ぼくら冒険小説読者にとって、途中『凍樹の森』という佳作が出たものの、谷甲州のストレートな山岳冒険小説に飢えた心にはどうにも物足りなかった。『遥かなり』を書けた作者に、あれと同程度かそれ以上の山を舞台にしたストレートな冒険小説が書けないわけがない、との期待が、こちら読者側のすべてであったのではなかろうか。

 そういうところに、この続編なのである。谷甲州の冒険小説は、ドンパチはもちろん、それ以前に過酷な自然という難敵を相手取るところの面白さがすべてであると言ってよい。それをこの作品では、『遥かなり』以降、最大限のディテールの書き込みによって、一大叙事詩に発展させてしまった。山、山、山、そしてここをたどるとうことだけで十分に素晴らしい、命がけで美しい冒険の物語が紡ぎあげられているのである。

 ぼくはこれは翻訳すれば世界の冒険小説と比肩し得る作品であると思う。クライマックスに名指された舞台のスケールには、なんたる無茶な、なんたる大胆な、と呆れかえってしまった。こんな風に読者を呆れかえさせる力技の冒険小説って、やっぱり最後には頼もしいし、希少価値たっぷりである。優れた筆力と裂かれた時間の堆石を、氷河のように、モレーンのように感じさせる労作。ぼくにとって1996ベスト作品である。

(1997.01.16)