空手道ビジネスマンクラス練馬支部





題名:空手道ビジネスマンクラス練馬支部
作者:夢枕獏
発行:講談社 199212.4 初版
価格:\1,600(本体\1,553)



 夢枕獏って、前にキマイラ・シリーズというのを読み始めたところ、いやにストーリーが分岐するばかりで一向に収拾がつかない点、『幻魔大戦』と同じじゃねえかよお、と足蹴にして、簾巻きにして、河に抛りこんだ覚えがある、まあぼくにとってはどうしようもない三文作家である。あんまり読んでいないせいかもしれないが、みんなはそう思っていないのでしょうか?

 まあ、この通り、口の悪いぼくでも、実は夢枕獏のプロレスものは読んでいたりする。およそプロレス関係の出版物はかなりの確率で読んでいたりするのだが、これはプロレスが趣味なんだから仕方ない。しかし夢枕獏のプロレスものというのは、作家側も読者側も趣味が昂じているばかりで、中身はない。水増し、上げ底、薄っぺら作品ばかりである。プロレス・ファン以外にはぼくは絶対に薦めたくない。

 さて、しかしこの本はちょいと違うのである。なぜって物語がシンプルながら、なかなか興味深い。ちんぴらに絡まれて屈辱を味わった中年サラリーマンが、空手を習い始めて、 そして・・・・ というけっこうリアルな庶民格闘小説なのである。子供の頃から男は強くなりたいと思う気持ちがどこかにあった。それをどこかでやめて、何か別のものに収まってしまっているのが、多くの男であり、多くの挫折である。そんなリアルな切なさいっぱい、夢いっぱいの力作がこれなのだ。

 正直な話、あまり期待していなかったのだが、ハヤチがあまりに薦めるので読んだ次第 ---- 空手使いとしてのハヤチからの感想文もこの作品に限ってはぜひ読みたいぞ> ハヤチ ---- だが、けっこうの拾い物である、これ。しかも中身内容から言って、この作品に関しては冒険小説ハードボイルドというジャンルの勲章をあげたくなった。下手なハードボイルドよりよほど出色である。人物の描き方もなかなか巧いではないかよお、と、嫌いだった夢枕獏である故に、少しばかりすねた風な顔つきになって口走るぼくなのであった。

(1993.04.28)
最終更新:2008年03月05日 21:42