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三浦和義事件





題名:三浦和義事件
作者:島田荘司
発行:角川書店 1997.11.10 初版
価格:\2,800



 実は先週読み終えたばかりのこの本、結構なパンチを食らってぐらりと揺れたような衝撃があった。三浦和義と言えば、ぼくはあのロス疑惑における真犯人と確信して、憎悪を覚えたり、逮捕時には快哉を叫んだ口だった。おそらく他のどの日本人もそうであったように。だからこそこの本は衝撃的であったし、マスコミの暴力というものが戦後ここまで人心を操り得たことに今更ながら穏やかならざるものを覚えた。

 そして真実の行方は『薮の中』にあり、多くの真実に至る路が在るのにも関らずただひたすら一本の路をのみ選んできた一億の国民というものは、いかに真実から隔たった場所から薮の中に向けて眼をこらしていたものか。

 島田荘司の『秋好事件』はとても衝撃的であった。もはやほとんどの人間に知られていないある旧い事件を、今も獄中にある秋好氏に取材し、日本の警察機構の闇に迫った。新本格の担い手と言われながら、一方で作家としてのより確かな活路を冤罪事件の発掘に見いだしたこの作家、もはやただ者ではない。

 その島田荘司が、三浦事件を追った。もはや17年も遠い過去のこの事件を、まさかこの事件に冤罪の匂いなんてと、不思議な気持ちとともにぼくは、この本に取り掛かった。そして第一部でマスコミの側、一般の視界から観た三浦事件をその時の思いそのままに振り返り、まだこの本の正体がわからなかった。でも第二部からいきなり軽いジャブが繰り出されてゆく。一つ一つのパンチはともかく、いつのまにかすっかり叩きのめされようとしている自分に気づく。

 警察の取り調べの下りはまるで五味川純平の反戦小説を読んでいるかのような胡散臭さだが、これが事実であるという作家の確信が感じられ、また同時に陪審制度のない日本の裁判システムそのものへの懐疑となって提示されている。一つの事件から戦後が見え、昭和日本の姿が浮き彫りになってゆく様は、やはり相当強力なダメージとなって感じられてくる。

 この本の内容は、誰もが知っているロス疑惑に正面から挑んだドキュメントだけに、たった一つしかないと思われたあの頃の真実が、覚束なくなってくるそのいくつかの強力な側面がある。ぼくはそこらの知人にこの話を持ち出しては、だれであろうと揺るぎもしない相手の信念に抵抗されたが、今日、三浦和義が東京高等裁判所で無罪を言い渡された。ぼくの話を最近聴かされた人たちは驚いているに違いないと思う。

 そしてこの本がこれからさらに読者を増やすであろうことも想像に難くない。三浦事件のこれまで全く報道されなかった部分、この深淵に、ある色彩の光を当ててご覧になりたい方は、ぜひこの本を今からでも遅くはない、手にとって自分の中の真実を覚束なくさせてみてください。

(1998.08.01)