真相




題名:真相
原題:Back Story (2003)
作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:菊池 光
発行:早川書房 2003.4.15 初版
価格:\1,900

 どうもタフを誇る自信過剰なホークとの会話のやりとりがどこか遠い世界のことのようでしっくりこない。死んだ犬パールをすぐに忘れて新しい飼犬パールIIの描写だけにあっさり代わってゆくところなど、本当に感性が噛み合わない。スーザンとの下ネタ会話などは、日本人の奥ゆかしさから見れば相当に考えられないことである。料理ができない女性が人をもてなすのにテンヤモノを発注するというのも非常識としか思えない。

 アメリカの私立探偵とその仲間たちの日常は、実に不可思議極まりない。敵であったはずの殺し屋たちがいつか知らず仲間となり、悪党共が探偵の恋人のガードを買って出る。さらに許せないのは、探偵料を取らずに趣味だけで深入りするには少々とうが立ってやしないか、という点であったりもする。

 こうした違和感は底をつきない。せっかくのアクションシーンの直後、敵を倒したスペンサーが真夜中にスーザンに電話で泣き言を述べるこの女々しさは、何ともずれているように見える。ある意味、小市民とヒーローとが裏表で合体しているような存在というべきか。このさささやかなズレ、大きな文化の差、生活態度の違和感、嫌みなほど暗示に満ちた会話。すべてがいつものスペンサーシリーズである。ぼくはそのシリーズを一巻残さず読んできたし、この先も読み続ける。何とも不思議だ。

 静と動の反復。前作は静。本書は動。いきなりの銃口。何体もの死体。1970年代前半のヒッピーたち。反戦と公民権運動。ドラッグと乱交。そんな時代の事件に首を突っ込んだ挙句、命を狙われるスペンサー。ホークの出番が多い小説は、大抵、静ではなく、動のサイドである。

 おまけにあのジェッシイ・ストーンがシリーズに登場してきちまう。境界のないパーカー・ワールドである。パラダイスの海辺に向かうスペンサーとホーク。無口なジェッシイと軽口なスペンサーとの出会い。こんなサービスシーンを含めて実に楽しく読んでしまえる。本当に多くの違和感にざらつく感じを否めないままに。第30作。何とも不思議なシリーズである。
最終更新:2006年12月10日 21:18