グラデーション





題名:グラデーション
作者:永井するみ
発行:光文社 2007.10.25 初版
価格:\1,600




 2007年、永井するみは、少女を主人公にした小説を立て続けに発表している。最も眼を引いたのは『カカオ80%の夏』というミステリーだが、本書もノン・ミステリーでありながら、『カカオ……』のヒロインに似た世界を持ち、そして生きてゆく。

 要するに『カカオ……』からミステリーをマイナスして、純度100%の青春小説にしたら、こんな風かと思われるような作品。それも、長編というスタイルではなく、一人の女性の各年齢における成長を追った一季節ごとの物語を集積した、連作短編集の形で。

 最初は14歳から始まり、続いて16歳、17歳、18歳、19歳、20歳、22歳、23歳と八つの時代を少女がどのように大人になってゆくか。

 印象的なのはタイトルだろう。それぞれの年齢を急にではなく柔らかに変化させてゆくという意味でのグラデーションであるのかもしれない。ヒロインが高校に入ってから目覚めてゆく油絵の世界の持つグラデーション。広大な空や海をテーマに獏としたグラデーションのような展示会を開いた写真家への恋も、その一つの要素だろう。もしかしたら大親友の少女がいつも丹念に施す化粧のグラデーション。

アルバイト先で見た漬物屋の店頭のグラデーションと、それを書くヒロインの抽象画。写真家の印象的な作品「羊毛」と称する羊の毛皮のアップ写真の持つ不思議なグラデーション。

 お洒落な姉や母のいる我が家の存在は、『カカオ……』と酷似しており、友達との距離の置き方の不器用さもどこか似ている。最も美しかるべき年齢の少女なのに、幸福というところに今ひとつ届かないもどかしさがあまりに巧みに描き出されている。それに、自分とはあまりに遠い存在の物語なのに、いつのまにかぼく自身、その心の中に入り込んでしまっているかのような不思議な読書体験をもたらしてくれる。

 素材がよい。絵、色、写真、それぞれのイメージを描き、作品世界を膨らませるのが巧い。作家として本当に円熟しているばかりではなく、この作家特有の優しさ、読書的快感というようなものを、作品に込めることが成功しているように思われる。

 ノン・ミステリーでも、少女小説でも何でもいい。永井するみの新刊は、当分、すべて追っかけ、っていうことにしてゆくつもりである。

(2008/01/27)
最終更新:2008年01月28日 03:47