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題名:錏娥哢た
作者:花村萬月
発行:集英社 2007.10.30 初版
価格:\2,200



 この作家は、そもそも読者に迎合するということをあまりしない。だから、書いたものを評者から別の意味で価値付けられてしまったときには、意外そうな顔をして照れ笑いを泛べる。最初の頃、『眠り猫』や『ブルース』が、わが冒険小説&ハードボイルドフォーラムで、受けに受けてしまい、このハードボイルド作家は凄い、ということになったのだが、当の萬月氏は、自分はホームドラマを書いているのであって、ハードボイルドなんか書いた覚えはないんだと話しておられた。

 でも、こちらはハードボイルド作家花村萬月にころりとやられた。『渋谷ルシファー』にも『真夜中の犬』にも『なで肩の狐』にもやられたし、『二進法の犬』にも『笑う山崎』にも見事にやれらる。そのうち、ハードボイルドとは一線を画して描かれた純文学シリーズ『王国記』や、『ぢん・ぢん・ぢん』『風転』などにも取り込まれてしまい、いつの間にか、萬月追っかけ、と言う風になってしまった次第。

 だから今さら彼の忍者小説と出くわしたからってどうってことはないはずなのだ。時代小説ならば既に『私の庭』で好印象を得ている、どころか、大いに取り込まれてる私だ。今さら忍者小説ったって、たかが……と私は舐めていたのだった。完全に、目論み違いだった。

 この作品、萬月がこれまで一作として書いたことのないような、破天荒な法螺話だったのである。山田風太郎や半村良へのオマージュだと帯に書いてあるように、非常にSF的時代小説であり、伝奇ファンタジーであるわけだ。もちろん、通常のノベルズによく見られるようなコピー小説であるわけでもない。

 劇画的素材はそのままに、描かれてあるものは日本史を紐解いた上に新たな遊びを加えて、和洋東西のスパイスを過剰なまでに効かせ過ぎた花村味の特別ごった煮料理というような語りつくせぬものとなってしまったのだ。日本史に遊び、日本語に遊び、忍者のスーパーなまでの術に遊び、超能力的世界の非人間的な何でもあり妖術の世界に遊びまくっていながら、しっかりと哲学をまでも遊び、煙に巻いてしまうような理論とイメージの洪水、ブレーキを忘れた暴走機関車、人間の脳はここまで自在に翔くことができるのかというような可能性の極北にまで挑んだ、チャレンジ精神溢れる、ある意味クソ真面目、ある意味とても無責任でいい加減とも思われる、韜晦と修辞的技術における言語のアクロバットなのである。

 通常の萬月作品の持つ戯作イメージに加え、エッセイや駄日記に溢れかえるこの作家の薀蓄雑学にまで及ぶ、いわば芸の見本市、それも形式に捉われぬ世界としての忍者ワールド、これの途方もないほどの法螺を愉しむ。それ以外に本書を理解しようとしても無駄無益であると思われる。正しき解釈、などというスタンダードな方向性を作品自らが拒んで病まない唐変木。ある意味これも萬月。しかし、なぜこの本がすぐに重版となったのか、誰がどのようにこの本を読んでいるのか、考えるだに薄気味悪く感じられるのは、私だけであろうか。

(2008/01/20)