松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集





題名:松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集
作者:松田優作、丸山昇一
発行:玄冬舎アウトロー文庫 1997.8.25 初版
価格:\724




 小説ではないが素晴らしい本なのである。シナリオ集、また松田優作に関わった映画人たち、未亡人である松田美由紀による追悼の文章でできている。思い出に満ちているばかりでなく、今も生き生きと映像世界に生き続けるひとりの卓越した俳優の、その映画作りへの念が、丸山昇一というフィルターを通し、今日にして甦った本である。

 松田優作の時代を大まかに分けてしまうと、3期に分かれる。

 『太陽に吠えろ』『俺達の勲章』などのテレビ・デビュー時代。この頃は映画の方も少なくテレビでも単独での主役を取れていない。そして暴力事件を起こして一度彼はその姿をぼくらの前から消してしまう。

 そして映画『人間の証明』で復活し、『大都会PartII』にも登場、一回り大きくなった松田優作が、2期目のピークを迎え、日本アクション映画に一つのムーブメントを巻き起こし、『野獣死すべし』を持ってその時代を唐突に終える。

 3期目が『家族ゲーム』以降。髪を切って、パーマを解き、耳をあらわにした松田優作は、かつての優作とは見違えるほど神経質に見えた。『それから』『ア・ホーマンス』等、ひとところにとどまることなく『ブラック・レイン』へ到達していったあの役者は、そこから彼岸へと旅立った。

 このシナリオは『野獣死すべし』以降。東映B級映画を卒業した優作がさまざまな形を模索していた時代から作られ始めたものである。すべてが新たな優作像。どれをとっても斬新な優作がこの本いっぱいに詰まっていて、一つ一つのシナリオが、とても素晴らしく人間的で、貴重で、泣ける。こいつらは、ただ者ではないのだ。

 TVシリーズ『探偵物語』では、シナリオ・原作・演出とは全く方向を変えたギャグ路線で工藤俊作像を作り出してきたのは、何を隠そう優作本人である。派手な衣装、過激な炎の出るジッポー、アナクロでコミカルなスクーター、そしてアドリブいっぱいのギャグに、密度の濃いマニアックな予告編。そのどれもが松田優作の着想なしにはあり得なかったものだったのだ。さほど松田優作という俳優は作品全体の根本に関わろうとする俳優であった。

 だから物語を考え出しては、丸山昇一に「こういう話を書いてこい」と要求し、丸山昇一の方はあっという間にシナリオにしてくる。優作はダメを出したり、上機嫌でOKを出したりする。丸山昇一と松田優作の二人が作り上げた、しかしついには映像化されることのなかった、すべて優作主演という仮定でのシナリオ集がこの本なのだ。

 シナリオによって、松田優作は、いろいろな人格になる。狂気の連続殺人者、オリンピックを目指すボート漕ぎ、映画プロデューサー、川くだりの船頭、探偵になってサイドカーを転がしたり、近未来都市をレプリカントとともにうろついたりもする。

 「丸山、俺たち、ありきたりのことをフィルムにしちゃダメだ。跳ばなきゃな。だけど、ごく普通の生活をとらえておかなきゃ、非現実の世界に跳んだって阿呆みたいなもんなんだぜ」by 優作

 また丸山昇一は優作にこうも言われた。「最高だ。お前に会わなきゃよかった。俺はこの映画一本で駄目になる」

 ある希有な才能が二つ重なって、今、映像化されることのないシナリオとしてここにある。幸運にもシナリオは想像をはばたかせてくれる素晴らしい形態である。ぼくらは、もし松田優作がここにいてこのシナリオを演じたら、という仮定の形でこのシナリオを読むことができる。あらゆる意味で優作という俳優を前提としたシナリオであるから。他の俳優では実現できないから。それほど難しい演出が要求されるシナリオなんだとも言えるが、そのシナリオが今、こうして生き生きとして読めるのは、かつて二人の男がこれらのシナリオに見果てぬ夢を抱え込んでいたという、とても貴重な、思い入れいっぱいの、これが大切な宝物だからなのだ。

(1998.03.15)