白の家族



題名:白の家族
作者:栗田教行
発行:角川書店 1992.13.30 初版
価格:\1,500(\1,456)

 どこにでも不遇な少年や少女たちがいる。彼らは不当に扱われている。世の中は彼らをねじ曲げようとしている。だから弱者であってはならない。自分なりの闘いを勝ち取らなくてはならない。この本はそういった忘れていた原体験みたいなものを、思い出させてくれる。

 家族が離散する方向へと働く遠心力というものの存在をぼくは、ある意味で信じている。それとともに家族を作り上げようとする悲しいまでの途方もない意志というものの存在が自分の中にあることも知っている。

 自分が幼い頃の父と母の不仲が、ある意味で自分に強烈な作用を施してくれていたりする。この本に収められている三つの中編小説は、どれも同じ意味で強烈である。ひとつずれてねじくれた組織に組み込まれてゆくことは容易だが、人間は反抗の力学に頼ることができる。アルベール・カミュの実存主義と通底していたりする。

 また社会的に親が子にどれだけの不幸を負わせることができるのか、ということについて考えさせられた。自分が親に見て来た不甲斐なさを、自分が親になろうとしている時に、どう処理すべきなのか、この本はそうした細く狭い道への地図の一 枚である。

(1993.11.20)
最終更新:2007年12月31日 14:31