宣告






 これは加賀版『死刑囚の記録』。彼がドストエフスキィに惹かれたのもうなずけます。日本では未だにぼくの中でこの作品を陵駕するものは現われない。そう、ぼくが無人島に持っていく一冊はこの本です。

 当時<日本文学大賞>ができて第一回受賞が晩年の小林秀雄『本居宣長』第二作が埴谷雄高、『死霊』と続いて、大方の予想の元に『宣告』は第三回受賞作になった(ように記憶してます)。主人公は東大出のインテリ死刑囚。その犯罪の章のピカレスクだけでもすぐれものだし、恋愛小説としてはこれ以上の極限の愛はないかもしれない。

 どこを切っても極北にあるような優れもの小説というしかないのです。

(1992.07.19)

 我が生涯のお薦め作品。

 ぼくは発刊当初、学生時代に読んだのだと思います。「新潮」に連載されている当時から、そのテーマの大きさに気づいていて、すごく待ち焦がれて、大切に読んだ作品でした。埴谷雄高や小林秀雄に続く、まだ当時は生まれたてであった(でもすごい権威だと思えた)日本文学大賞に輝いたとき、当然の受賞と思っていました。

 中でも『悪について』の一章は、これのみでもすごい作品だと思える重さがありました。もちろん、ぼくはこの記憶が『照柿』や『罪と罰』に繋がっているんですが。

 加賀乙彦は日本でもトップ・クラスのドストエフスキィ狂いです。高村薫の『マークすの山』で主人公らがドストエフスキィに傾倒していた下りを読んだときにも、引き戻されるような思いを感じましたけど。

 『宣告』の直後の『湿原』という作品も珠玉の長篇です。東大紛争と冤罪を扱ったものです。『湿原』の舞台はあちこち自分の足で訪れているので、全然忘れることができません。『宣告』の剣岳の雪渓も登っているけど、あれが天国への階段と思える情景は象徴的でした。

 他にドキュメント『死刑囚の記録』がいいでしょう。永山則夫なども出てきますけど、『宣告』のモデルの原形となった死刑囚たちの素顔に触れることができます。

 また『還らざる夏』という終戦の日のクーデターを扱ったものもありますが、これまた加賀乙彦の中のベスト3に入れたくなる作品ですね。機会があればどうぞ。

(1998.05.01)
最終更新:2007年12月16日 00:16