フランドルの冬



 初期作品で、どちらもフランス留学した精神科医の狂気を扱ったもの。祖国から長く離れることで存在の基盤自体が孤絶してゆく姿が結構恐ろしい。狂気のシーン、それを表わす文体、会話体は、ちょっと他の日本作家を寄せ付けない表現力ではないかと思っています。まあ、心理小説的な部分が多いです。エキゾチックなヨーロッパの乾いた暗さ(日本的暗さではない)という意味では、この人と辻邦生が双璧でしょう。

 『荒地を旅する者たち』とは姉妹作品ということになるのでしょう。

(1992.07.19)
最終更新:2007年12月16日 00:00