恋は底ぢから





題名:恋は底ぢから
作者:中島らも
発行:集英社文庫 1992.7.25 初刷 1992.8.20 第2刷
価格:\420(本体\408)



 作者若かりし頃の意外とまじめな部類のエッセイ集であるから、作者は本編でもあとがきでも大いに照れまくっている。

 恋のまじめな話が沢山聞けて面白いのは、この本が女性雑誌に連載されたものをまとめたせいであるらしい。男というものは女性に対しては少しばかりまじめに語りたくなってしまうものなのである。男同士だと照れ臭くて言えないような心のデリケートな移ろいなどを、女性になら -- それがまた特にちょっぴり気のある女性だったりすればなおのこと -- なんとなく打ち明けてしまえたりするものなのである。

 そんなわけで、かく言うぼくも、若かりし頃は女性を相手に馬鹿を言う機会が多かった。中島らものように女性雑誌で、こんなにもガラス細工めいた心の綾を書くことができたら、もっと心地好くもっと照れ臭かったことだろうと思う。

 でも歳をとって女性たちとの年齢差が出れば出るほど、ほとんど心の綾などを打ち明けられる相手はぼくにはいなくなってしまった。それとも、ぼくの側の心の綾みたいなものが消えてしまったのだろうか?

(1993.06.05)
最終更新:2007年12月15日 22:37