突然の災禍




題名:突然の災禍
原題:Sudden Mischief (1998)
著者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:菊池 光
発行:早川書房 1998.12.15 初版
価格:\1,900

 スーザンの元の夫と言えば愛犬パールの元の飼い主であることくらいしか書かれたことがなかった。『晩秋』においてスペンサーは過去をあらわにしたものだけれど、スーザンの過去のほうについては(とは言えほんの一部ではあるけれど)、本書でようやく初めて明かされることになる。

 元夫ブラッドの持ち込んだ災厄の解決についてスーザンがスペンサーに依頼する。本書のプロットの妙はここにある。スーザンがまるでデリカシーのない鈍感女性に見えるのは今に始まったことではないが、その分をしっかりとケアできるくらいスペンサーの方は神経が行き届いているので、常にスーザンの暴走は最後には大事には至らない(大事件にはなるが離別という大事には至っていないという意味で)。

 さて本書でも元夫の悩みを今の恋人スペンサーに依頼するスーザンという図式は、恥・奥ゆかしさという文化を持つ日本人にはわかりにくいところがあるような気がするが、アメリカではそんなやわな神経で女性とまっとうに付き合うことはできないのかもしれない。

 スペンサーの気苦労は察して余りあるけれど、結局は彼の職業が探偵であり、恋人からの頼み事に仕事という以上に騎士然と取り組むスペンサーの行動ぶりが本書のすべてといっていいかもしれない。

 それにしても久々にレイチェル・ウォレスが登場する。スーザンとの微妙な心の亀裂を修復するには絶好の女性であり、彼女こそ女神のようにいつもスペンサーの危機を救いにやってきている。ある意味で男女の性別を超越した関係を保てる珍しい存在レイチェル。友人としてきっと理想的な存在であるに違いない。
最終更新:2006年12月10日 21:06