アマニタ・パンセリナ





題名:アマニタ・パンセリナ
作者:中島らも
発行:集英社文庫 1999.3.25 1刷
価格:\457

 1995年にハードカバーで出版されたときには、あ、ドラッグ関連のシリーズ短編集か何かなのね、文庫になったら読もうっと……と棚に戻した本であった。しかし、さて文庫になってみたら、短編集というのはこちらの当時の勘違いであり、この本は『青春と読書』に連載されていたシリーズ・エッセイをまとめた一冊ということなのであった。

 中島らものエッセイはイージー・リーディングとして軽く読み流し、腹を抱えて笑うものがほとんどというイメージなのだが、この本に限ってはかなりの点で違っていた。多くの「らも本」の中でも変種というべき一冊であり、そこには人間の生存の根底を突いてくるようないやな感覚(「恐怖」と呼んでは大袈裟になるが「ブラック」と片づけるには重過ぎるもの)……だ。

 中島らもという作家が書く小説は、多くの点で笑いやロジックに包まれてはいるものの、一方で死と対峙したがっている傾向を感じることがよくある。『ガダラの豚』や『今夜すべてのバーで』もそうだったし、一方で得意としている恐怖小説集などもそうなのである。

 そうした死への傾斜感覚とでも呼びたくなるような印象を、このエッセイでぼくはさらに強めた。『今夜すべてのバーで』は日常の中から闇の側へ飲まれてゆく恐怖が非常に現実的でいやに怖い話であったが、中島らもが本エッセイ集でも、リアルでマイナスな衝動を抑制しきれないことへの懊悩が見え隠れする。

 この作家にはドラッグやアルコールに強く傾いてゆくマイナスの衝動があり、40歳を過ぎてからは鬱病にもなった。このエッセイの最中にも強力な鬱病にかかり、その中での自ら命の危険をも後日振り返っている。生を投げ出したくなる自分の中の衝動。若い頃からの断続的な自己否定は、自己殺しとまで呼びたくほどに破滅的である。

 笑いや軽妙さを盛り込んだ描写の中に作家の黒い衝動が感じられ、それと懸命に闘おうとする生への執着もまた感じられる。作者自身の特異な部分を敢えて曝け出しているように見える。ある意味で大きな冒険をしたなと思われる一冊なのである。

(1999.04.29)