水に似た感情





題名:水に似た感情
作者:中島らも
発行:集英社 1996.9.30 初版
価格:\1,500

 らものアルファ波小説ということで、読み始めたが、どうにも正体の掴めない出だし。一体これは何小説なのか? と自問しているうちに終わってしまう空気のような小説。要するにプロットなどどうなっているのか? はたまたこれはあの恐怖の純文学というものなのか? などと深く深く黙考してゆくうちに、どうにも救いのない平板なプロットが小説としての謎を秘めたまま進行してゆき、そのまま終わってしまうのだ。

 どなたか、この小説がすっごく波乱万丈で楽しかったという人がいたらぜひ教えて欲しい。あるいはこの小説は人の病みつかれた心を癒す、文章の特効薬なのだよ、と断言できる方などいたら、ぜひ頭の悪いぼくにそう諭して欲しい。どうもそういうすべてがわからぬままに、らも自身をモデルにしたような主人公たちが、南海の島でいい天気の中ほんわかしている姿を読み終えてしまった。どこかでホラーに変わるに違いない、なんていう期待にも全然応えてくれない。

 これほど本格的に作品自体の存在を推理しなければならないミステリーは珍しい。他の誰でもない中島らもだからこそそういうのであるが。最近『じんかくのふいっち』や『舌先の格闘技』などが双葉文庫から出たばかりでこちらの方は大変にこにこと読めるウルトラ本だという中島らもの、きちんとした小説だからこそ、ぼくはますますわからなくなってしまうのだ。本当、だれか教えてください。

(1996.11.07)
最終更新:2007年12月10日 01:08