※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

今夜すべてのバーで





題名:今夜すべてのバーで
作者:中島らも
発行:講談社 1991年3月30日 初版
定価:\1,200(本体\1,165)



 面白くてすらすら読めてしまった。一言でいうとアル中の闘病記を小説化したものだが、その迫力たるや生半可ではない。これはおそらく酒飲みが読んだ場合と、下戸が読んだ場合とでは迫力が違うのだろうなあ。ぼくの場合、中途半端な酒飲みで、学生時代は連日連夜が宴の繋がりであったが、いまでは酒量もそんなに行かなくなったし、酔いも早く回るようになった。先日の採血による肝機能検査ではGOTもGPTもγGTPも他のなんだかわからないものも併せて5つほど異常値が出ていた。肝臓が毎年異常値を刻むので酔いが早く回り、酒が飲めなくなって来たのだろうか? まあ、とにかくそういう男が読むべき本ではあるかもしれない。

 そういう男が読むにしても、おそらくは正常な人間が読むにしても、どのみちこれは一種の恐怖小説であることにかわりはない。とってもリアルなアル中の治療と、アル中になったいきさつとが丁寧に描かれて行くのだが、そのどちらもがけっこう恐怖に満ちた体験となっている。またアル中を通じて、目的とか現実意識を失って行く人間の破滅志向のことが丹念に描かれているので、薬物中毒やその他の様々な依存症への恐怖がこれでもかこれでもかと語りかけて来るのだ。

 酒を飲む人は是非読んだほうがいい本だと思ったし、もしかしたらこの 本を読むことで、自分の中の「依存する部分」と冷静に対峙するのに良いきっかけになるかもしれない。アル中患者の恐怖を通じて現実世界との関り方を自らに問うて見るのもたまにはいい薬であるかもしれないのだ。そ れにこの本は薬にしては苦くない。ユーモラスな病棟の患者たちと、悪夢のような死の身近さと、失われたものへの悲しみとが、いろいろなトーンで読者に語りかけてくる。とても人間臭いページの数々が、のっけから読者捉えて離さない本であると思う。

 本当に入院から退院までの坦々とした本なのに、この中には心と体の闘いや冒険がいっぱいつまっている。新しいスタイルの面白小説である。

(1991.07.31)