ガダラの豚






題名:ガダラの豚
作者:中島らも
発行:実業之日本社 1993.3.25 初版
価格:\2,000(本体\1,942)


 とっても分厚いハードカバー。この本は、このまま武器として使えるかも知れない。抽象的な意味ではなく具体的にそのくらい重みと硬さのある本である。二冊に分けて欲しいとの声も高いのではないだろうか?

 んで中身はというと、本の体裁がそのくらいなわけだから、やっぱり中身もすごいのである。重厚壮大で、前に読んだ『今夜すべてのバーで』からは創造もつかないくらいの冒険小説である。本当にいろいろな要素の混在したジャンル分け不明の国際面白恐怖アクション小説なのだ。

 絶対にこの本は話題になるべきであるとも思う。『マークスの山』がなければ、この小説を今年のナンバー1に押したいほど、と言ってしまう。ううむ、絶賛してやるのだ。

 最初ぼくはどんな本かなあと思いつつ読んでいた。いわゆるどう言うパターンの本なのだろうかなあ、という経験的な類推や、左脳に属するであろうカテゴリー分けヘの要求や、分析癖ともいうべき悪どくも小市民的な興味のまなざしをページの上に注いでいたのだ。しっかし、驚いたことに、これらの興味が最後まで持続してしまう本なのである、これは。考えてみれば『今夜すべてのバーで』もそうだったなあ。完全にこれまでの小説の約束ごとの裏を書いて来る作家なのだなあ、中島らもというのは。

 山崎浩子がテレビ画面でアップになり始めた同じ時期に、新興宗教の仕組みみたいな滑り出しで始まるこの本を読み始めた。本編はこの後アフリカの大地へと飛んでゆくのだが、最後には日本のTVスタジオへと大団円が移行する。なんとも同時代的な楽しみを満喫させてくれる本なのである。だから、これは今読まなくてはいけないですぞ。

 教授夫妻のたくましさがずっと、読者の心の友でありました。中島らも的ハルマゲドン世界は、今でもできるだけ多くの方の御来場をお待ちしているようですよ。

(1993.04.27)
最終更新:2007年12月10日 01:00