人体模型の夜





題名:人体模型の夜
作者:中島らも
発行:集英社 1991.11.10 初版
価格:\1,200
 中島らもってこんな不思議な短編小説集を出してたのね。タイトルから想像されるような、人の身体のあちこちの器官 ---- 眼とか耳とか鼻とか胃袋とか、そういったものを用いて作り出された、異常幻想小説集みたいなものであった。

 長篇『今夜すべてのバーで』自体が、アル中と言う現象とその入院を通して、人の身体のとある断面を大きな題材にした小説であることを思えば、そのわずか前にこのような小説集が同作者によって書かれたことは不思議ではないはずなんだが・・・・。独特の幻想性、グロテスク、超常現象への興味みたいなものは、後の『ガダラの豚』に通じるものを感じられて興味深い。

 そして何よりもこの人の言葉の能力というのは並みではないなあ、という感心。エッセイ集などでも十分感じているのだけど、今、日本で文章の巧い若手作家と言えば、村上春樹とこの中島らもであると思う。だから、この不思議体験とも言える短編集を読んでみて、またもその才能にぼくは感じ入ってしまったのであった。

 文章の良さというのはテーマの良さに直列で繋がっているものなのだろうか? いずれにせよ、こういう作家にはある種の正確な論理性みたいなものが感じられる気がする。エンターテインメント小説も成熟したなあ、と思える一冊でした。

(1995.05.17)
最終更新:2007年12月10日 00:58