バンド・オブ・ザ・ナイト





題名:バンド・オブ・ザ・ナイト
作者:中島らも
発行:講談社 2000.5.24 初版
価格:\1800

 何だか既に読んだような話だと思った。それもそのはず。ドラッグ・エッセイ『アマニタ・パンセリナ』の内容をそのまま小説化したみたいな内容の本なのである。即座に後悔の念が湧き上がった。

 実験小説とでも言うのだろうか。その昔だったら筒井康隆がいかにもやりそうな前衛的言語氾濫によるトリップ表現。これが売り物だとしたら、実は2000年に体験する言語氾濫体験は苦痛以外のなにものでもなかった。イメージを言葉として連ねただけのものが延々20ページ以上も反復される。さて、読む価値があるのかどうか。

 ぼくはちなみに、とてもアホなことだとは思うけれど一応意味のない数十ページを全部読んでみた。苦痛であった。トリップから覚めて普通の描写になる転換点がある。その時のさわやかさと言ったらなかった。まるで暗いトンネルを抜けたような爽快感。それが狙い? でも読者にとっては暗いトンネルはやはり苦痛なのだ。金を払ってこんなものを読むなんてマゾ行為以外の何ものでもない。やはり最後にはそう思うのだ。

 イメージの洪水をつらつらと読んでいると、けっこういちいちつまらないことに気づく。単なる単語の羅列なんだが、さてプロレス技の名前がいくつ隠されているでしょうか? ……なんて問題を出したくなるのだ。ああ、空しいっ!

 ここのところ小説方面ではこの人、駄作/手抜き作ばかりだと思う。サービス精神欠如ということだと思うのだ。結局は『今夜すべてのバーで』『ガダラの豚』だけの作家だったのか。いや、そもそも小説家ではなかったのだと思う。

 それにつけても、家族持ちのだらしない家庭に多くの居候がやってきてラリる毎日。それだけの本。ある人は精神科に入院、ある人は自殺、ある人は病死、と居候仲間はどんどんいなくなってゆき、やがてそういう日々がすーっと終わる。なんだか暗く救いのない話なんだけれど、こういうものを書こうと思う中島らもの心の闇は、もっとずっとねじれているようにぼくは感じてしまったものだ。

(2000.06.27)
最終更新:2007年12月10日 00:55