禽獣の街



題名:禽獣の街
作者:坂眞
発行:健友館 2000.4.10 初版
価格:\1,300

 作者自ら読んで欲しいとFADV内で言われただけあって、多くの作家のデビュー作がそうであるように多くの意気込みが込められている。内なる衝動が書かせたものなのか、きちんと言いたいこと、内容、世界をしっかりと持っているいい小説なのだと思う。ただ表現する内容にこれだけの凄味を持ちながら、小説のルールのようなもの、技術的なベースのようなものに、ぼくとしては欠如感を感じる点が多々あって大変に残念。

 ありがちな自己陶酔型の世界秩序や主人公の内なる規律を、どうこちらに納得させてくれるのかという方法論でもあるのだが、小説としてぼくがあまり好きではない表現方法が安易に使われ過ぎているのが気になってならないのだ。

 まず表現というよりもダイレクトな説明になってしまう文章が多いこと。誰が言っている意見なのか表現者の特定できない文章が多いこと。小説とは説明や意見発表とは違うやり方で表現するジャンルであるという約束が守られていないときに、釈然としないものをぼくは感じてしまうのだ。

 他に表現という点で言えば、間やリズムが非常に不安定であること。描写の主体が入れ代わり過ぎること。括弧付きで主体の考えが括られて表現されるスタイルはプリミティブに過ぎて、これもぼくの好みではなく落ち着けない……などなど。

 多くの粗削りでぼくにとっては致命的と思われる欠点を秘めつつも、なんだか内なる衝動の沢山蓄積した作家であるだけに、より小説方法の研鑽を積んでいただき、技術を上乗せして、表現への道を辿っていただきたいものである。

 最後に、偉そうに言って申し訳ございません>坂さん。しかし自分にできないものを求める自由は小説読者側にあるということもご理解下さいませ。次作、執筆中とのこと。期待しております。

(2001.03.18)
最終更新:2007年12月09日 23:19